[PR] 生命保険相談 7.神の宿る祭

神の宿る祭


 七の鐘がホムラの郷に時を知らせる頃にはもう、陽はその姿を完全に山々の向こう側に隠し、すぐそこまで夜の帳が下りてきていた。月明かりに照らされた夜空は真っ暗な闇に染まりきることなく、ただ蒼く、どこまでも広がっていた。

 男達の手によって灯された篝火が家々の前で真っ赤に燃え盛り、すすの混じった黒い煙が、蒼い夜空に吸い込まれて消えていく。

 郷の中央の広場にある櫓の周りに、松明を手にした男たちが集まってきていた。
 彼らは皆、郷中を廻り、全ての篝火を灯し終えて戻って来た者達だった。

 櫓の周りをぐるっと囲んだ男達が、手にした松明を一斉に頭上高く掲げると、いつの間にかその背後に集まっていた年寄り衆達が、その男達の間を掻い潜って櫓の前へと歩み出た。
 社遷しの時とはまた違う、神宿りの儀の始まりを告げる祝詞が、長老の口から高らかに読み上げられ、やがてその祝詞は祝いの唄へと変貌する。
 長老に続いて、その他の年寄り衆達も高く、低く、祝いの唄を唱え出す。
 そしてそれは1つの唄となり、ホムラの夜空に響き渡り始めた。

 突如、パチパチという火の爆ぜる音と、祝いの唄以外に何も聞こえない静かな世界に、男達の雄たけびが一斉に上がった。

 その雄たけびが祝いの唄と交じり合って一段と大きくなった時、男達は掲げた松明をぶんと音を立てて一度振り回し、櫓の天辺に向かって一斉に放り上げた。
 いくつか落下する物もあったが、ほとんど全部の松明が櫓の上部に投げ入れられた。
 獣脂の焼ける匂いがまたツンと鼻につき、その途端ボゥッと音をたてて櫓に炎が上がった。
 それと共に年寄り衆と男達は二回パンパンと手を叩き、櫓に向かって深々と一礼した。
 周りの見物客からどっとどよめきと拍手が起きて、それは大きなうねりとなってあたりに広がっていった。

 年に一度の祭祀、『神宿りの儀』の幕が切って落とされたのだ。

 長老が年寄り衆にさっと目配せをすると、皆こくりと頷き、社の方へと個々に移動を始めた。
 男達もまた、そんな見物客を横目に社へと歩き始めた。

 広場の中央では、櫓の炎がゆらゆら揺らぎ、まるで衰える事を知らないかのような勢いで、ごうごうと燃え盛っている。時折大きな音を立てて、櫓から大きな火柱が上がっては、辺りの見物客は喜んだ様子で歓声を上げていた。


 郷の中央の広場で、櫓に炎が上がった頃、社の前では小さめに組まれたいくつかの篝火が次々に点灯されていた。
 点々と配置された篝火の炎に照らされて、闇の中に浮かび上がった社の姿はとても神秘的で気高い。荘厳としか言いようのない迫力で、見る者達を圧倒していた。

 篝火が転々と置かれている手前には、大人の肩ぐらいの高さで舞台が組み上げられている。
 例年に比べてかなり大きく備え付けられたそれは、黒光りするほどによく使い込まれた木製で、新しく造り足された部分だけが、白々と木本来の姿を曝け出していた。
 舞台の手前にも篝火が点々と配置され、舞台は炎の上にゆらゆらと浮かび上がっているようにも見える。

 社遷しが終わった後、出店や大通りの方に流れた見物客も、徐々にまた社の周りに戻ってきていた。先ほどまで中央の広場で櫓への点火を見物していた人々もまた、舞の奉納を見るために続々とこちらに流れてきていた。