三人は他愛もない話に花を咲かせながら、人ごみを抜け、中央の広場までやってきた。
広場の真ん中には、枯れ枝や薪などを積み重ねて作られた櫓がある。
夜になると点火されるその櫓を見上げながら、スマルが二人に言った。
「知ってるか? 今、年寄り衆が集まってるらしい」
いきなり真剣な面持ちで言うスマルに、アサキが問い返す。
「年寄り衆が? 神宿りの儀の段取りか何か?」
スマルが首を振った。
「いや、わからん。ただ、何か様子がちょっと、な」
「ちょっと、なんだよ、スマル?」
ユウヒもまた聞き返した。
「ただならぬ雰囲気、っていうのか? いつもと違う感じだったんだよな。それが気になってさ」
「まぁ、今夜の祭は特別だからね。年寄り衆も、そりゃいろいろ大変なんだろうよ」
スマルの言葉にユウヒがそう答えると、スマルはまた首を横に振った。
「それだけか? 何か俺は、他にも何かあるような気がしてならんのだが…」
そういうスマルは心配そうにアサキとユウヒの二人を見つめていた。
「ほら、スマル! そんな顔すんなって、大丈夫だから」
「そうそう! ユウヒの言うとおりだよ。あんたがそんな暗い顔してどうするの?」
ユウヒとアサキが明るい声で言うと、スマルは苦笑してつぶやいた。
「まぁ、そりゃな。そうだけどさ」
ユウヒ達は顔を見合わせて笑うと、スマルに言った。
「まぁ、なるようにしかならないさ。ここまで来たら…だよね、アサキ?」
「そうだよ。私達はいつものように舞を頑張るだけ。それだけだよ」
なかなか曇りのとれないスマルの顔に、二人はつとめて明るい声で話した。
ユウヒが思い出したように剣を抜き、スマルに向けて言った。
「あんたが細工をしてくれた剣だよ。こいつのお披露目なんだからね。シケた顔したままでいたら、この剣あんたに向けて投げ飛ばすよ!」
「なっ……」
ひるむスマルにユウヒが笑って言葉を続けた。
「最初っから、一番前でよーく見といてよ!」
スマルの顔が少し歪んで、苦しそうな笑顔になった。
「おぅ、頑張れよ。ユウヒ。アサキ、お前もな!」
「うん。ありがと、スマル」
沈黙が続き、しばらくしてアサキが口を開いた。
「じゃ、私達がそろそろ行こっか」
ユウヒが頷いて、剣を鞘におさめた。
「そうだね。じゃ、スマル。またあとで」
「おう! 二人ともしっかりな!」
軽く手を上げて、二人はスマルと別れて社の方へと歩き出した。
「じゃ、俺もそろそろ、篝火の準備といきますかね……」
スマルは広場の端に並べてある、松明を一つ一つ手にとって、獣脂の染み具合などを確かめて歩いた。
日はどんどん西に傾き、郷もずいぶん薄暗くなっていた。
神宿りの儀の始まる時間が、刻一刻と迫っていた。