「はい! 今日はここまで!」
ヨキの声に娘達の動きがぴたりと止まり、その瞬間緊張の糸が切れたのか、その場にバタバタと崩れて座り込んだ。剣舞を舞っていた者達も、皆その動きを止めて剣を鞘に納めると、足を投げ出して仰向けに倒れこんだ。
「きっつ〜い!」
アサキが声をあげた。
「みんなごくろうだったね。明日からは日中も稽古を始めるよ。祭まで、気を引き締めていこう! お疲れさん! 気をつけて帰るんだよ!」
そう言って舞台から降りていくヨキに気付いて、ユウヒは慌ててガバッと起き上がると、急いでその後を追った。
「母さん!」
「なんだい、ユウヒ」
ヨキがその足を止めて振り返った。
「帰り、少し遅くなる。スマルが広場に顔出せって」
「あぁ、スマルから聞いてるよ。楽しんでおいで」
ヨキは手を上げてユウヒに挨拶をすると、舞台から降り、帰り支度を始めた。
ユウヒはヨキを見送ると元いた場所に戻り、仰向けになって手足を投げ出すと、そのまま目を閉じて深呼吸した。
――やっぱり、気持ちいいな……
ユウヒは剣舞が好きだった。
剣舞を始めた頃は、まだ覚えたての舞を思い出すのに必死で、変に力が入ったり、剣を握る手の皮が剥けたりで、とても楽しめるようなものではなかったのだが、ヨキに言われ、毎日稽古を続けるうちに、無駄な力も抜けてきた。
その日の気分によって、自分の舞が微妙に異なることに気づいてからは、変にこだわらずに思いのままに舞うようになった。
ヨキもそれを咎めることはしなかったので、ユウヒはどんどん舞いに夢中になっていった。
何も考えずに真っ白になっている自分が気持ちよかった。
「はぁ…なんか、めんどくさくなっちゃったなぁ」
ボソッとつぶやいて目を開けると、アサキがユウヒの顔をのぞきこんでいた。
「何?」
ユウヒは勢いをつけて体を起こした。
「どうした、アサキ?」
アサキはユウヒの横に座り込んで、上気した顔のままでふぅっと息を吐いた。
「めんどくさくなったって、行かないの、広場?」
アサキに呆れ顔で聞かれて、ユウヒは苦笑してそれに答える。
「いや、行くよ。約束したんだし。アサキはどうする? みんなにも声かけようかと思ってるんだよ」
「私も行っていいの?」
なぜか窺うに聞いてくるアサキの態度を不思議に思いながらユウヒが言った。
「当たり前でしょ。あっちだって、みんなに声かけてるんじゃないかな?」
アサキは嬉しそうに笑顔を浮かべて立ち上がった。
「じゃあ行く。みんなには私が声かけてくるね」
そう言うと、帰り支度をしている娘達に声をかけてあちらこちら歩き回り始めた。
その様子を目で追いながらユウヒは立ち上がり、自分も周りに声をかけてまわった。
ほとんどが家族に何も伝えてないからと家に帰ってしまったが、それでも数人が声に応じてその場に残った。
「けっこう残ったかな…じゃ、行こうか」
ユウヒは髪の毛をまとめていた紐をほどき、指で髪を整えながら歩き始めた。
まだ帯びたままの刀の鞘が、歩く度にぶつかってコンコンと音をたてた。
皆、思い思いに今日の稽古の話や気になる男の話など、とりとめのない話に花を咲かせて歩く中、ユウヒ一人が静かに先頭を歩いていた。
ふと、アサキが小走りにやってきて並んだ。
「ホントに良かったの? こんなに大勢で」
「まだ言ってるの? アサキ。かまわないよ、何?」
少し迷ったように目線をそらして、ポツリポツリとアサキが言った。
「だって…スマルはユウヒと話したかったんでしょう?」