舞いの稽古が始まる前に、今日新たに稽古に加わる面々の紹介も兼ねた顔合わせがあった。
最初に紹介されたのは、ユウヒとリンの母親で舞いの指導にあたるヨキだった。
あの後何をどうしたのか、とてもつい先ほどまで酒をあおっていたとは思えない堂々とした態度で、郷の娘達を前に挨拶をしていた。
その後、ユウヒに剣を渡してくれたキエともう一人、イエリの紹介があった。
この二人とヨキの三人で今年は舞いの指導にあたるとのことだった。
続いて、ユウヒとリンも合わせて五人の名が呼ばれた。
全員、今日の日中に郷へ戻ってきたものばかりだった。
それぞれ立ち上がって簡単に挨拶をして、一礼してからまた座った。
新しく加わった五人の紹介が済むと、キエが娘達の名を順に呼んでいった。呼ばれた者は立ち上がって一礼して、またその場に座った。
一通り紹介が終わると、キエがその場にいる全員を見回し、イエリとヨキを見てうなずいた。
それを合図にヨキがスッと真ん中に出て手をパンッと叩いた。
それまで小声で喋っていた娘達も、ビクッとして黙り込み、皆ヨキの方に注目した。
ヨキはその様子を確認すると、静かに話を始めた。
「もう聞いている者がほとんどだと思うけれど、全員そろったところでもう一度言っておきたいことがある。大切なことだから、心して聞いて欲しい」
そう前置きしてから話し始めたのは、夕飯の後でチコに聞かされたものと同じ内容だった。
すでに知っている者がほとんどだったが、今日から合流した三人や、今まで話半分できちんと聞いていなかった者はかなり驚いていた。
それでも話が終わる頃には、またいつもの年のように、気になる男の話などの雑談で、あたりはかなりざわついていた。
(まぁ、こんなこったろうとは思ったけどね…)
ヨキは苦笑しながら言葉を続けた。
「じゃ、稽古に入る前に、何組かに分かれてもらうからね! 今年は社遷しもあるから、剣舞の人数が増えるよ! 剣舞は私が教える! 名前呼ばれたら前に出て。アサキ! ユウヒ! ニイナ! リン! レイ! マナ! 以上六人。リン、レイ、マナはまだ年が二十に足りないけれど、今年は人数いるからね、頑張ってもらうよ。次! キエのところ…」
ヨキのよく通る声で組分けが発表されている。
最初に呼ばれた剣舞の六人は、新しい社の近くまで先に移動しておくように指示された。
アサキとユウヒは二度目、ニイナは三度目の剣舞だった。
すでに剣はそのために用意された腰布にきれいに固定され、各々の使い勝手の良いように帯刀していた。
アサキとニイナは腰の両脇に一本ずつ提げ、ユウヒは尻に少しかかるくらいのところに交差して提げていた。
今日キエから初めて剣を手渡された三人は、鞘に納められたそれをどうしていいかわからないと言ったふうに二振りの剣を抱きかかえ、すでに帯刀の済んでいるユウヒ達の方にチラチラと視線を送っていた。
実戦用ではないとはいえ、かなりの重さがあるため、初めて渡された時にはかなり戸惑うのだが、リンは姉のもので何度か遊んだことがあったため、他の二人に比べると、戸惑っているというよりは嬉しくてたまらないといった様子だった。
最年長のニイナがそんな三人の様子を見て声をかけた。
「鞘のここ、ここにこの腰布をこう通して…」
真剣に聞いている三人に、ニイナは丁寧に教えていた。
その姿を横目に、アサキが後ろに交差しているユウヒの剣をポンとはじいて話しかけてきた。
「あいかわらず、それなんだね。ユウヒ」
ユウヒは苦笑して言った。
「そうだよ。背中に背負ってみたり、いろいろ試したんだけどね。私はどうもこれでないと最初の出だしが合わないんだよ。あんた達みたいに、手を交差して抜刀したいんだけど…なんだろうね、スッといかなくてさ」
「ははは、あんたらしくていいんじゃない? 今年はなんか紐なんかもついちゃってるし、また何かやらかしてくれるんだ?」
アサキにそう言われて、ユウヒは自分の剣に目をやった。
「あぁ、これ?」
ユウヒは笑いながら剣を抜き、キエが見せてくれた技をアサキにやって見せた。
「ほらね。今年はあんたの所に飛んでかないから。安心して」
「そりゃ助かるよ」
アサキとユウヒは顔を見合わせて笑い転げた。