社には、すでに娘達が集まっていた。
今年は例年に比べて少し多い。二十人くらいいるだろうか。
ユウヒやリン達と同じように郷に帰ってきたばかりの者も何人かいるようで、久しぶりに会う懐かしい顔にあちらこちらで話に花が咲いていた。
「ユウヒ!」
名前を呼ばれ、声のした方に顔を向けると、同い年のアサキが手を振っていた。
「アサキ! 久しぶりだね。元気だった?」
歩み寄ってユウヒもアサキに声をかける。
「もちろん! 元気元気ぃ!」
返事をしたアサキは、意味ありげな含み笑いでユウヒの方を見ていた。
「ねぇっ、あいかわらず仲良いね、あんた達」
「あぁ、私とリン?」
ユウヒの返事に、アサキがじれったそうに顔を歪めた。
「何とぼけてんのぉ! スマルだよ、スマル!」
「はあぁ? スマルぅ!?」
ユウヒは間の抜けた、裏返った声で返事をし、そして心底うんざりした。
毎年、舞いの稽古で集められた娘達の話題は示し合わせたようにもっぱら男がらみばかりで、誰に声をかけてもそんな話ばかり持ちかけられた。
実際、祭の時の舞いを見て、その後に男達から声がかかる事も少なくないようで、娘達も誰がいいだの何だの、舞い自体よりもそっちの方が気になって仕方がないといったふうだった。
これと決めた相手がいる者は、自分がどの舞台のどのあたりに立って舞うのかを事前に相手に教えておいたり、また逆にどのあたりで舞うのか聞きだしたりと、若者達には儀式うんぬんよりもそっちの関心の方が俄然高かった。
ユウヒも毎年その話に巻き込まれてうんざりしていたのだった。
勝手に周りで盛り上がっている分にはいっこうにかまわないのだが、気が付くとなぜかユウヒ自身も巻き込まれ、あげくにいつの間にかスマルが自分の相手になっていた。
最初は否定もしていたが、最近では馬鹿らしくなってそれすらもやめ、適当に受け流して相手にしないようにしていたのだった。
それが今日は久しぶりに皆で集まる稽古の場で、しかもいきなり親しい友人のアサキに言われたものだからユウヒは内心かなりイライラしていた。
どうでもいいだろう! と、怒鳴ってやりたくもなったが、初日からいきなりそれも今後の稽古に差し支えるだろうと、不満たっぷりと言った顔でユウヒは返事をした。
「あんたもホント……あいかわらずだね、アサキ」
「何怒ってんの? みんなそう言ってるよ」
ユウヒの不機嫌そうな様子に、アサキが苦笑しながら答えた。
こういう類の噂は、それを打ち消す新しい事実をでっちあげるぐらいの事をしないと、否定するのは難しい。
ユウヒはもう何年もそれを思い知らされているので、苛立ちはするが放っておいた。
「好きに言ってりゃいいさ。私、剣受け取ってくるから」
何か言いたげな顔で寄ってきたアサキの横を素通りして、ユウヒは奥に進んだ。
もうすぐ、二十年間にわたるその役目を終えようとしている二十年目の社は、未だにその圧倒的な存在感でそこにあった。
ユウヒ自身は、鳥獣がどうとかそういう信仰に関してはあまり熱心な方ではなかったが、人がどうこうできない何か大きな力とか、そういう「何か」はあると思っていた。
実際、社に近づくと空気が張り詰めているような、澄んでいるような、不思議な感覚を感じていたし、何か神聖な感じとはこういうものかな、くらいの思いはあった。
あたりを見回すと、社の前にある願いごとの木と呼ばれる山桜の老木の陰から、誰かが手招きをしていた。
「こっちだよ、ユウヒ!」
近付くと、毎年ここで舞いの稽古をつけてくれているキエが立っていた。