「ユウヒ姉さん! リン! 久しぶり!」
社の近くまで来ると、同じように舞いの稽古のために呼ばれた娘達がたくさんいた。
その中から声をかけてきたのは、リンと同じ年の友人レイだった。
「レイ! 元気だった?」
リンはレイに駆け寄った。
「先に行くね、姉さん」
軽く手を上げてユウヒに告げると、リンはレイと楽しげに何かを話しながら先に歩いて行った。
残されたユウヒはふうっとため息をついて空を見上げた。
(仲が良い姉妹って評判なのに、どうして二人で話すとこうも気を使うのかね)
ユウヒはいつもそう思っていた。
何か下手なことを言うと、リンが壊れてしまいそうで、実際かなり気を使っていたのだ。
ユウヒ自身、自分がそんなにすごい人間とは思っていないし、実のところ、リンもそれはわかっているはずだった。ただ、リンには何をやるにも自分がなんなくこなしているように見えてしまうらしく、そんな事はないといくら言っても、リンは認めてはくれなかった。
(なんだかなぁ…)
もう一度ため息をついて前を向くと、そこには人が立っていて、ユウヒはよけきれずにそのままぶつかってしまった。
「あ、すみません」
「ボーっとしてんじゃねぇぞ、ユウヒ!」
久々に見る懐かしい顔が、ニヤニヤと笑って自分の方を見下ろしていた。
「げっ! スマル!」
「げっ、とはなんだよ、げっ、とは!? 帰ってきたって聞いたのに全然お前が顔出さないから、こっちから来てやったんだろうが!」
幼馴染みのスマルがいつもと変わらぬ様子で笑っている。
スマルがいつからそうして自分の近くにいたのだろうか。ユウヒは苦笑してスマルを見上げた。
「あぁ、そりゃ、どうも…って、いいのか? 広場の方は?」
「これから行くとこだよ。舞いの稽古終わったら、広場来いよ!」
「はぁ?」
「じゃあな〜!」
それだけ言うと、広場へ続く大路を走って行ってしまった。
「なんなんだよ、あいつ…」
ユウヒとスマルは郷の手習い塾の頃からの友人だった。
ユウヒはその性格からか、女友達と一緒にいることよりも男友達といることの方が多く、スマルもその中の一人だった。
なぜか気が合うので一緒にいる事も多く、周りにはいろいろと噂を立てる者もいたが、本人達は気にもせず、むしろそれを楽しんでいた。
スマルはユウヒよりも1つ年上で、郷の若者達をとりまとめる立場にいた。
特に何かの役目を任されているわけでもないのだが、皆、スマルを慕っていた。
その日の夕刻過ぎ、スマルは社で作業をしている時にユウヒ達の帰郷を耳にした。
シムザがユウヒの妹のリンと歩いているのを見かけて、ユウヒも顔を出すのではないかと思って待っていたが、まったくその気配がない。
あいかわらずな友人の様子を思い浮かべ、スマルはユウヒが舞いの稽古に向かうところを待ち構えていたのだった。
あきれ果てたようなスマルの顔を思い出して、ユウヒはそれまでいろいろ考え込んでいたことがいっきに吹き飛んでしまっていた。
――広場に来い。
わざわざそれだけを言うためにここで待っていたのか、そう思うとくすぐったかった。
(あいかわらず、マメなヤツだな。スマル)
自然に笑みがこぼれた。
リンに対する複雑な思いで煮詰まっていたユウヒは、スマルがいつもと同じ調子で声をかけてくれた事が本当に嬉しかった。