ユウヒとリンは、篝火の準備で慌しい中央の広場を避け、郷の中をくもの巣の横糸のようにつながっている小道を通って社へと急いだ。
郷を出てからも、毎日欠かさずに舞いの稽古はしていたとはいえ、身内以外の前で舞うのは二人とも久しぶりで、早足で歩きながらも頭の中で舞いの段取りを反芻していた。
「姉さん」
ふいに声をかけられ、ユウヒは少し驚いた顔でリンを見た。
「何? どうした?」
リンはユウヒの方を見ずに、前を向いたままで答えた。
「姉さんってやっぱりすごいよね」
「また始まったよ。何がすごいの?」
少し苛立った様子でユウヒが聞くと、リンはまた前を向いたままで言った。
「だってさ、初めの舞いと終の舞い、両方任されたでしょう」
「あぁ、それか。別にそんな、すごいってほどのもんでもないんじゃ…」
「ううん。やっぱりすごいよ。姉さんはすごい」
依然として目を逸らしたままで、リンは同じ言葉を繰り返す。
「またそれか。あんたは私が何やってもすごいすごいって」
ユウヒは飽きれた様子で溜息まじりで言葉を返した。
「だってすごいんだもん」
「そんなすごいことないよ」
「それでもやっぱり…」
「はいはい、もういいよ。わかったわかった」
押し問答のようになってきて、ユウヒは無理矢理会話を終わらせた。
「それでもすごいよ、姉さん…」
リンが小さくつぶやいた。
リンは二つ上の姉が好きだった。
何かにつけて担ぎ上げられたり、皆の中心となって動いていたり、何かをやり遂げては両親にほめられている、そんな姿ばかりが思い浮かんだ。自慢の姉だった。
ただ、その思いが強すぎて、リン自身も気付かないうちに強い劣等感が生まれていた。
実際には、リンもユウヒと同様に何かと中心になってやっているのに、なぜかリンは何をやっても姉にはかなわないと、そう思い込んでいた。
姉のユウヒは、妹のリンがそんなふうに自分のことを見ていることを知っていた。
リンから直接そう言われたからだ。
しかし、何をやっても「姉さんはすごい」の一言で片付けてしまうことがいつも気になっていた。
ユウヒ自身、確かに何をやってもそれなりにすぐに形になってしまう事は自覚していたが、それなりの努力はしているつもりだった。
そして、何でもある程度はこなせても、本気になってそれに取り組んでいる者には全くかなわないことも知っていたから、自分がすごいとはとても思えなかった。
それよりも、とにかく何に対しても真剣に取り組む努力家の妹、リンの方がよっぽどすごいと思うのだが、リンはそれに関して、それでも姉さんはすごいの一点張りで、聞く耳を持たなかった。
自分の事をよく知らない人間に言われるのは気にならないが、一番近くで見ているはずの妹が、他の人間と同じように自分のことを言うのは何とも複雑な気持ちだった。