ホムラの郷は少し傾斜のある土地にあった。
郷の東西、そして南に大きな門があり、北側は山がすぐそこまで迫っている。
南側の門が一番大きく、そこから真北に向かって道が続いている。
郷の中央には広場があり、そこから道幅がぐっと広くなる。
その大路が山とぶつかったところに社はあった。
狭い郷なので、社は二つ並ぶような形で建造されており、二十年ごとに場所を入れ替える『社遷し』が執り行われる。その儀式が終わると、古い方の社はその役目を終えて取り壊される。
それまでは、郷の一番奥に2つの社が並んで鎮座していることになる。
社の前には大きな広場があり、二つの社の間、大路から入って真正面には『願いごとの木』と呼ばれて郷の者に親しまれている山桜の老木があった。
毎年「神宿りの儀」の際には、この社前の広場に舞台が備え付けられ、そこで娘達によって舞いが奉納される。見物客は社の敷地の中に入る事はできず、社の周りに足場を組み、土塀越しに見ることになっていた。唯一、郷の年寄り衆のみ、舞台中央の前に桟敷席を用意されるのが慣例だった。
中央の広場からのびる東西南北の通りの他に、その四つの道の中間にも道があった。八本の道が、広場から放射線上にのびているような形になっている。
郷を斜めに走る道はそれぞれ小さな門に続いており、それらは郷の人々が出入りするのによく使用していた。
それに対して東、西、南にある大きな門は二階層建ての物見櫓のようになっており、二階部分には武装した男達が見張りを兼ねて常につめていた。
郷に出入りする行商人の類は必ずこの三つの門を通過するようになっていて、不審に思われる人物などは、ここで門前払いにあっていた。
郷の中央の広場には、若い男達が徐々に集まり始めていた。
日もほとんど落ちてしまって、薄暗い中に獣脂の臭いが漂い始めている。
今夜もまた、郷の家々を松明を持って廻るため、男たちはその準備に追われていた。