郷を縦断している大通りは、郷の南門から中央の広場を貫き、そのまま背後の山に向かってまっすぐに延びている。祭の前らしく、通りはたくさんの人であふれかえっていた。
大通りのつきあたり、郷の一番奥に位置する社は、そのすぐ後ろまで山の傾斜が迫っている。
昼過ぎにはほとんどの作業が終わったということで、周りに組まれた足場などはすでにもう取り除かれており、新しい社はその荘厳な姿をおしげもなく白日のもとにさらしていた。
真っ白に塗られた壁が日の光を浴びて、一瞬輝いているかのように見え身震いが起こる。
その圧倒的な存在感を前にすると、誰に言われたわけでもないのになぜか自然に頭を垂れてしまうような、畏敬の念を感じさせる何かがあった。
まだ御神体がお入りになる前と聞いてはいたが、その真新しい神の住まいは、すでにその神聖な何かの加護のもとにあるかのように見えた。
「すごいね、姉さん…」
社を見上げて、リンがつぶやいた。
――本当にすごい……
ユウヒは言葉を失っていた。
リンも頬を赤くして、その美しい姿に魅せられていた。
社に見とれて立ち尽くす二人の後ろから、一人の若者が近付いてきた。
二人が自分に気付きそうにない様子を見てとると、背後から明るく声をかけた。
「リン、おかえり!」
「あ、シムザ!」
その若者はシムザだった。
リンが嬉しそうな声を上げて、シムザの首に飛びついた。
リンの頭をくしゃくしゃとやりながら、シムザはユウヒにも挨拶をした。
「ユウヒ姉さんも、お久しぶりッス」
「シムザじゃないか! なんだ? お前、また背が伸びたんじゃない?」
話をするのに、以前よりも上がる目線に気付いてユウヒが訊ねた。
「そうッスね。伸びてますよ、まだ」
シムザは照れくさそうに答えると、リンの頭をポンッと軽く叩いた。
リンはハッとしたように顔を上げ、慌ててシムザから離れた。
シムザもリンも十月ぶりの再会に、ソワソワと落ち着きがない。
「あぁ…私、お邪魔のようだね」
「いやっ! ユウヒ姉さん、そういうわけじゃっ…」
ユウヒはわざと大げさにニヤリと意味ありげな笑みを浮かべると、シムザとリンを交互に見た。
この二人がお互いに想い合っているのはもう周知のことで、行き交う人々も、ユウヒの前で小さくなっている二人を目にしては笑顔を浮かべて通り過ぎていく。
「冗談だよ。まったく、からかい甲斐のある二人だよ、あいかわらず」
そう言ってユウヒは笑った。
「やっと会えたんだから、少し話をしていくといいよ。私は先に家に戻ってる。チコ婆さまがいろいろ用意するようだから、夕飯までには戻るんだよ」
リンの顔がぱあっと明るくなった。
こういう時、リンは本当にわかりやすい。
ユウヒはそんな妹の姿を見て安心したように息をふっと吐くと、シムザの肩を軽くつついた。
「じゃ、ごゆっくり」
「ありがとう姉さん。夕飯には必ず戻るから!」
振り返らず、リンの言葉に手を上げて返事をしたユウヒは、もう一度だけ社を見上げ一礼すると、歩きなれた懐かしい道を家に向かって歩き始めた。