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グリスの違いは、本当に効くのか?

脅威の熱伝導率 グラファイトシート!

LastModified 02/10/14

 

さて、グリスの話です。現在のCPUは、メーカを問わずヒートシンクを装着する様になっています。その際に、CPUとヒートシンクの間に塗るのがグリスです。当然の話ですが、CPUの発熱を効率的にヒートシンクに伝えることが好ましい訳です。てな訳で、普通のグリスよりX倍の熱伝導率と称してS○グリスとかD△グリスとか様々なものが市販されています。(すみません、私も買った事があります^^;)

さて、ここれひとつ考えてみましょう。一体理想的な熱結合とは何なのか? 当然金属同士が完全に面と面で接触して間に何も入らない状態です。最悪な状態とは空気が入ってしまっている状態ですな。つまりシリコングリスが果たすべき役割は、金属間に空気を入れない事という訳です。

参考までに熱伝導率を以下に示します。単位は、W/m・k です。

 

403
アルミ 236
コンクリート 10
36
水銀 7.8
シリコングリス(信越 化学 G765) 2.9
シリコングリス(たかちん印サーマルコンパウンド TSC-1) 2.6
シリコングリス(HotStuff SSグリス) 1.05
シリコングリス(サンハヤト SCH-30)

0.84

空気 0.024

 

うーん、改めて数値にすると凄いですねー。アルミの 236 に対して、グリス1〜3 。仮にこれが2倍3倍になってもどれだけ違うかですよねー。そう考えると金属同士の平面接触がいかに大事か思い知らされます。(一時流行したCeleron のコア平滑化ですが、この意味からすると効果あると思います。SLOT1-celeron の四隅はあきらかに出っ張ってて、ヒートシンクに傷がつきまくります。)(T_T)   よって

「グリスの熱伝導率を云々した時点で負け」

じゃねーのというのが私の考えです。一番大事であるのは、空気をいれない「塗りやすさ」ではないかと・・・・・・・・

グリスに銅粉を入れるのも一部ではやった様ですがあれもよくわかんないですね。結局、銅粉と銅粉の間にはグリスが入るのですから。さて、前置きはこれ位にして実験しましょう。

 


実験するにしても理想的な熱結合だとどうなるかわからないと比較のしようがありません、そこで今回秘密兵器を用意しました。

    松下電子部品(株)製

  PGSグラファイトシート

です。詳細はこちらを見ていただければわかりますが、厚み0.1mm の柔らかいシートなのに銅の2倍もの熱伝導率を誇るというとんでもない代物です。「あらゆる物質の中でダイヤモンドに次ぐ熱伝導度」だそうです。Let's Note にも使われているらしいですね。

 

項目 特性
厚み 0.1mm
密度 1.0g/cm3
熱伝導率 箔方向: 600〜800 W/m・K
長手方向: 5W/m・K
電気伝導度

10000 S/cm

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手に持った感じはピラピラでとても驚異的な熱伝導率を持つとは思えません。非常に脆く、手で簡単に千切れてしまいます。傷をつけると熱伝導率に影響があるので取り扱いには注意が必要です。見た感じは黒光りして正に黒いダイヤモンドという感じです。これを使えば「理想的な伝熱状態」を作り出せる筈です。

これを使った場合とシリコングリスを使った場合について比較を行ってみます。

 


1 機器構成

 

CPU Celeron300A 100x4.5MHz駆動 Vcore=2.05V Vio=3.66V   SL2WM 09060444     COSTARICA
M/B ABIT BX6rev2 with TurboPLL01
Cooler Alpha P125 + オリエンタルモータ6cmファン x 2
OS Windows95 OSR1
グリス サンハヤト SCH-30, HotStuff SSグリス、PGSグラファイトシート(2枚積層)、たかちん印 TSC-1

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#但し取り付け方法は Alpha の標準であるバネ止め方式を使いません。バネ止めの場合明らかに締め付け力不足です。PGSシートの威力を発揮するにはある程度の力で締め付ける必要があります。これはグリスの場合も同じです。(この件については別の記事に記載します)

取り付けは、Celeron 背面中央部に5mm厚プラ板を絶縁の為に張り付け、リテールシンクと P125 をネジで結合させます。(サンドイッチする) プラ板を使用しているのは背面リテールシンクからの放熱の影響を排除する為でもあります。

 


2 実験方法

  1. ケースは閉めた状態とする。

  2. シリコングリスはセッティングを5回行って計測し、ベストのデータを使用(作業性の影響を排除)

  3. 温度計測は以下の5点

  4. 室温、ケース内温度、CPUコア近傍、ヒートシンク(以上全てサーミスタによる)

    BX6rev2 のW83782D の機能によりCeleronコア内部サーマルダイオードより内部温度読み取り

  5. 計測条件:FinalReality を1時間以上ループさせ、温度変動がなくなった後、一番負荷の高い City 時で温度を計測


3 実験結果

室温 23.5℃ における結果です。これは私の環境における結果であり、ケースや使用機器により変わってくることはご了承願います。

グリス比較

ケース

シンク

コア脇

コア内部

SCH-30

計測温度

26.0

29.3

31.7

44.0
室温との相対温度

2.5

5.8

8.2

20.5

SS

計測温度

25.0

28.8

31.4

44.0

室温との相対温度

1.6

5.4

7.9

20.6

TSC-1

計測温度 25.0 28.9 31.1 43.9
室温との相対温度 1.5 5.5 7.6 20.4

PGS

計測温度

26.0

28.9

30.5

40.0

室温との相対温度

2.5

5.4

7.0

16.5

 


4 考察

  1. グリス同士の違いについて

    SCH-30, SS のグリス同士はほとんど変わらないですね。若干 SSグリスの方が低いですが誤差範囲でしょう。むしろ特筆すべきは塗布の仕方(作業性)の影響です。今回は5回擦りあわせを行ったベストの数値を記載していますが最大で3℃程度の差がありました。この事から考え、グリス自体の熱伝導率よりもグリスを少なく空気を入れずに塗布することこそ重要ではないかと考えます。

    信越化学のG765が入手できればもっとはっきり言い切れますが、200g \40000 は出せないっす。^^;

  2. PGSシートの効果について

コア脇の結果を見る限りにおいては、グリスとPGSシートの差は1℃程度にすぎません。(逆に言うとSCH-30の様な安価なグリスでもきちんとセッティングすればここまでいく訳です。)しかしコア内部の結果を見ると4℃もの低減があります。これは一体どういう事でしょう。ここからは推測ですので嘘80%です。

今回の測定点の概念図を下に示します。

 

wpe6.jpg (20634 バイト)

300a.jpg (33110 バイト)

 

CPUコア脇(普通は皆さんここではかりますよね)といっても所詮は、CPU基盤上の温度です。当然CPUコア内部からコア表面までの熱伝導度と、CPU脇までの熱伝導度は違っていると思います。今回PGSシートの使用によりCPUコアからヒートシンクまでの熱伝導度が高まったとすると、よりコア内部の熱がヒートシンク方向に抜けやすくなったとは考えられないでしょうか?

実際の理由はコアの内部温度分布を調べないとわかりません。ここにあるのは、PGSシートを使用しただけでCPUコア内部温度が4℃低下したという事実だけです。(勿論、この数値は私の環境における相対値に過ぎません)

さて、あなたは「熱伝導率が高いという高価なグリスを購入する」方を選びますか?、それとも「何回もセッティングを行いベストな伝熱状態を探す」方を選びますか? え? 両方やる? ごもっとも。(^.^)

尚、PGSシートを使用した場合、何回セッティングを行っても常にベストな結果が得られました。当たり前ですけどね。^^;

「作業性の影響を受けずに常にベストな伝熱状態を再現できる」

ことこそ、最大のメリットと思います。特にペルチェを使用して周りを断熱材で囲い擦りあわせもままならない場合には威力を発揮するでしょう。

 


5 おまけ

最後に今回ご紹介した PGSグラファイトシートの入手方法ですが、残念ながら私が知る限り現状一般個人が入手することはまず不可能です。残念な話ですが・・・

今回は私 四万十川 五十歩百歩 のコネクションを総動員して1枚だけサンプル(B5サイズ)の入手に成功しました。結構、良いお値段です。(T_T)


6 前言撤回(1999.07.13追記)

偉そうに結論を書いておきながら、前言撤回です。結果の欄に[たかちん印サーマルコンパウンド TSC-1]を追加しました。これは、ヒートシンクで有名なたかちん氏が以前、nifty で有志に配布されたものです。知人より分けて頂き、[コア研磨]を行う前に実験していました。入手方法がないので、記載をためらっていましたが、先日 田川アルミさんより発売されて誰にでも入手できる様になりました。これを機に、結果を記載します。

結果を見ると、コア内部温度は他のシリコングリスと大差ありませんが、コア脇ではSCH-30に比べて、0.6℃温度が下がっています。測定誤差とするかどうか微妙な所です。このTSC-1 は、田川アルミさんによると熱伝導率 2.6 W/mk と、信越のG765並です。逆に言うと、熱伝導率がSCH-30に対して3倍もあってもこの程度の差ででしかないのです。300Aのコアは、中央が結構へこんでいるにも関わらずですよ。所詮、[グリスの熱伝導率に頼った時点で負け]という私の主張は変わりません。

それでは、やっぱりグリスはなんでもいいかと言うと、私は以下の理由から、この TSC-1 をお勧めします!

TSC-1.jpg (11003 バイト) とにかく塗りやすい。その柔らかさはブルーベリーヨーグルト並です。セッティングの安定度は格段に向上します。

10gで\700と値段も SCH-30 と大差なく、非常にリーズナブルです。これに比べたら、S○グリスとか、D△グリスなんざ阿呆らしくて使えません。

普通のシリコングリスは塗ったあと揮発成分が飛んでガビガビになってしまいますが、TSC-1は2週間後に外してもシットリしたままでした。かなりの経時安定性が期待できそうです。

という訳でグリスなんてなんでもいいというのは撤回です。^^;   一人10個は買いましょう。え、私ですか? とりあえず2個買いました。(笑)

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