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Vapochill_Tune4 ペルチェ負荷試験

LastModified 02/10/14

「欲望と野心、策謀と疑惑、誇りと意地。
舞台が整い、役者が揃えば、暴走が始まる。」

(高橋 良輔監督 「装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端」-第4話「臨界」予告より)

という訳で、飽きもせずVapochill TuneUp part4 です。前回までで一応考えられる対策はできた様に思うので、今回はペルチェによる定負荷試験を行なってみます。

尚今回の結果・考察に関しては、gamaさん、masamotoさんから多大なる御教授を頂きました。改めて、御礼申し上げます。本当にありがとうございました。


1. ペルチェの設置及び断熱

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前回も少し紹介しましたが、今回もCPU無しで冷却ユニットのみの性能評価を行います。

エバポレータと85W級ペルチェを、KENDONバックプレートでサンドイッチして固定し、外側を10mm断熱材x2で覆います。最後に5mmのアルミ板(P2のサーマルプレートにネジ穴を切った物^^;)2枚で軽く締め付け、空気を遮断します。尚、エバポレータの戻り銅管接合部は断熱粘土でコートしています。

ペルチェへ5V印加時で約30W、12V印加時で約70Wの負荷となります。

はなはだいい加減ではありますが、これでペルチェの発熱に対してエバポレータ及びコンプレッサ各部の温度がどうなるかを見てみようと思います。


2. 検証条件

計測条件

冷却ユニット単体駆動にてエバポレータを上図の様に断熱し、各回転数においてペルチェに5V, 12Vを印加して一定負荷をかけた状態で、起動60分後の温度を計測。それ以後、傾けて(ケース正面右下に雑誌をスペーサとして3mm挟む^^;)60分経過後に温度を計測。

計測位置

Evapo       :エバポレータのCPU接触面上部(CPUの真上)
CompUp   :コンプレッサ 頂上部
CompLow :コンプレッサ 戻り銅管付け根付近


3.実験結果

室温 約25℃

ペルチェ負荷試験

2000rpm

3500rpm

3700rpm

Evapo

CompUp

CompLow

Evapo

CompUp

CompLow

Evapo

CompUp

CompLow

無負荷

-26.0 21.5 18.4 -29.0 24.2 15.4 -29.0 24.0 16.2

無負荷+傾き

-29.0 27.1 25.3 -34.0 35.5 30.4 -35.0 41.1 36.6

30W

-20.0 23.0 17.2 -24.0 27.5 17.9 -25.0 27.5 17.8

30W+傾き

-25.0 32.7 30.2 -31.0 41.9 38.0 -31.0 43.3 39.1

70W

-7.0 35.1 32.7 -13.9 37.9 33.8 -15.0 41.8 36.6

70W+傾き

(注1)

(注1) 数分でエバポレータ温度は41℃まで上昇し、コンプレッサは45℃程度まで上昇。危険と判断し緊急停止。
(注2) ペルチェ吸熱側は、いずれも温度計の計測限界(-40℃)を下回った為、計測不能。
(注3) コンプレッサの温度はエバポレータに比べて温度変化がかなり鈍いので、安定するまで1時間は放置する必要有。


4.考察

過去の結果を踏まえて、まとめてみます。

(1) 各回転数での各部の温度は以下の順となります。

エバポレータ温度 : 70W > 30W > 無負荷 > 30W+傾き > 無負荷+傾き
コンプレッサ各部 : 30W+傾き > 70W > 無負荷+傾き > 30W > 無負荷

傾き無しの場合コンプレッサ温度は共に、70W > 30W > 無負荷 の順となっています。負荷がかかったことで、エバポレータ内における冷媒の気化が促進され、冷媒が戻り銅管を飽和蒸気の状態で戻る(コンプレッサを冷やさない)様になった為と考えられます。

一方、[30W+傾き]と[70W]、[無負荷+傾き]と[30W]を比べた場合、コンプレッサ各部の温度は「負荷が大きい場合より傾けた方が高い」結果となっています。つまり「傾ける事で、冷媒はより飽和蒸気となってコンプレッサに戻っている」事になります。これは、「傾ける事で冷媒循環量が少なくなった」としか考えられません。

(2) [70W+傾き]では、全く冷えなくなってしまう。

これは以前、ペルチェとCPUを併用した方が「不安定で全然冷えない」と報告されている現象とも符合します。冷凍サイクルはクローズドサイクルですからガス量だけで調整している場合(後述)、冷媒ガスの状態が変わればヒートバランスが崩れてしまいます。冬場だったら冷えていたかもしれません。

70Wの熱を処理しようとすると、1.5〜2kg/h程度の冷媒循環量が必要です。キャピラリは、masamotoさんの予想では、十分それだけの冷媒を流せるほど太くて短い様です。にも関わらず、このような現象が発生するのは、Vapochillがキャピラリに依存せず、ガス量によって冷媒循環量を制御している為(後述)だと思います。従って、70Wを吸熱させるには、もう少し冷媒充填量が多い方が良いのでしょう。

(3) 各回転数におけるエバポレータの温度差を下表に示します。

エバポレータ温度差 2000rpm → 3500rpm 3500rpm → 3700rpm
無負荷 -3.0℃ 0℃
無負荷+傾き -6.0℃ -1.0℃
30W -4.0℃ -1.0℃
30W+傾き -6.0℃ 0℃
70W -7.0℃ -1.1℃

負荷が高い程、回転数Upの効果は大きくなっています。特に、2000→3500rpmでは、顕著です。傾けた場合については、負荷に関らず温度差はほぼ同じレベルの様です。

3500→3700rpmは・・・・・まあ、やらないよりはマシ程度でしょうか?

(4) BD35Fのスペックシートによれば、3500rpmにおけるコンプレッサの冷却能力は、下表の通りです。

温度   -30℃   -25℃   -20℃   -15℃   -10℃   -5℃  
負荷   36.2W 42.8W 50.8W 59.5W 68.9W 78.5W

[30W+傾き] で-31℃、[70W]で-14℃   という結果は、ほぼカタログスペック通りです。(仕様ではBD35Fの冷媒充填量の限界は350g だが、Vapochillの場合 85gの充填なので、単純に比較はできませんが・・・)

以上の事から考え、傾けると後述の理由で冷媒循環量が減り、エバポレータでの気化が促進されBD35Fの限界まで冷えるのではないかと考えられます。

(5) 傾きによる冷媒循環量の変化

以下はmasamotoさんと意見交換させて頂いた内容を四万十川がまとめた物です。また、冷媒循環のイメージ図も masamoto さんから頂きました。

充填ガス量は85gだが、内容積と理想的な内部状態を推定してガス量の過不足を試算してみたところ、余裕があるとは言えないが、少々のことで不足するとは思えない。傾ける事でガス不足状態となり、冷えてる可能性が強い

キャピラリは、ガスより液体を通し易い性質を持つ為、液化冷媒は蒸発器圧力まで減圧し、湿り蒸気となってエバポレータに流入する。キャピラリ内部の流れは複雑で、通常、入口は液、eva側に近づくにつれ圧力降下を起こすので、途中で発泡し、気体と液体の2相流となる。Vapochill の条件だと、乾き度0.3〜0.4程度の湿り蒸気となってeva内に噴出される。

Vapochill でeva-20℃としたときの冷媒循環量は約1kg/h。この冷媒循環量を実現しようとすると、内径0.5mmで長さ5m近くが必要となる。しかし、実際は1.5 〜 2m 程度である(外径2mm、内径は不明)。

また、発熱の大きいアスロンにも対応している様なので、冷媒循環量を多めに設定してある可能性も高い

以上のことから、Vapochill のキャピラリ抵抗が少なすぎて、キャピラリ手前の液冷媒が不足、低圧側に冷媒が移動していると推定される。むしろ、

「キャピラリは絞り弁として機能しておらず、ガスの充填量で冷媒循環量を調整している」

かもしれない。その場合、熱的な均衡状態が僅かに変化するだけで、内部の状態が変化し、冷えたり冷えなかったりしてるのではないだろうか。

如何でしょうか? これが「傾き冷却の謎」の真相ではないかと思います。

(6) Vapochill の個体差 -ガス充填量のばらつきについて-

上記の様に冷媒循環量をガスの充填量で制御しているとすれば、充填量の影響でもろに個体差が発生する事になります。以下はgamaさんと意見交換させて頂いた内容を四万十川がまとめた物です。

Aseteckによると冷媒は自動充填装置(チャージングスケール)で自動充填しているとの事。 手持ちのカタログに載っているフロンの自動充填装置は 5万〜13万円の製品で充填精度は±2〜14g。

85gの充填量に対して±14gの物を使っているとも思えないので、±2g悪くても±5g程度の誤差と推定される。よって85gの充填量に対して、最大6%程度の個体差は十分に考えられる。

如何でしょうか? 6%の誤差というと大した事はなさそうですが、これがどれだけの差になってしまうかですね。エアコンや冷蔵庫等は確立した技術だと思い込んでいましたが、現状のガス冷却に限って云えば、

「最大効率を目指すのであれば、個々のチューニングは避けて通れない」

と云えそうです。

という訳でガス冷却の大家お二人におんぶに抱っこで考察を進めてきましたが、ここらで結論です。

1. 傾き冷却の原因はキャピラリの抵抗不足に起因し、冷媒循環量が不足する事で引き起こされる。

2. Vapochillの個体差は、充填ガス量のばらつき(最大6%程度?)によって引き起こされる。

3. 70W の負荷においてはガス量の不足を引き起こしている事から、ペルチェ併用はしない方が無難。

ガス量のチューニングにより最高効率を引き出す事で、傾き冷却と同等の限界性能が引き出せると推定されますが、CPUの交換等による発熱量差を汎用的に処理する事を考えると、敢えて[傾き冷却]でチューニングしてやるのも一つの手という気もします。

私ですか? さて、そろそろ禁断の扉を開ける時がやってきたかもしれません・・・・(爆)


5.独り言

という訳でようやくvapochillの性能の限界が見えてきました

現在主流の0.18μプロセスのCPUの消費電力は約30Wなので、傾き冷却を併用すれば、エバポレータを-30℃程度に維持できるという事になりそうです。コンプレッサの出力やユニットの大きさ、最低温度までの到達時間を考えると思ったよりも性能は良いと思いませんか? ま、実際にCPUつけてみたらまた、色々問題は出てくるでしょうが・・・え、Pentium4の消費電力は60W?・・・勘弁してよ、いやほんま。(爆)

「そして先頭を走るのはいつもあいつ」

(高橋 良輔監督 「装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端」-第4話「臨界」予告より)

誰や〜、教えてくれ〜。少なくともわしじゃないのは確かやな、うん。

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