9のツボ 国境(ビザ)
旅する冒険ライダー 坪井伸吾のページです

 

 

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 もしあなたがバイクで外国を旅している時、空路入国にしかビザを発行しない国にぶつかったらどうしますか?答を見る前にどうすればこの国を走れるかちょっと考えてみてください。法律で決まっているのならどうしようもないと思いますか?もう一度よく見て下さい、この国は空路入国にしかビザを発行しないだけで決して陸路入国してはいけないとは言っていない。だからまず航空券を買って大使館でビザを取ったら、それを払戻してバイクでいけばいい。国境は旅行者にとって力量を試される場なのです。したたかにいきましょう。今回はそんなお話をひとつ。


96年の正月僕はケニヤで苦しんでいた。エチオピア大使館が年が明けてから急に旅行者にビザを出さないと言いだしたのだ。陸路でケニヤからエジプトに行くならこのルート以外はない。エチオピアを通らないなら30年内戦のスーダン南部に抜けるか、アフリカの火薬庫ソマリアに出るか?そこを抜けれてもサハラ砂漠のチャド、カザフィのリビアと楽しい国が目白押しなのだ。

しかしなぜ急にエチオピアはビザを出さなくなったのか?年末までは当日発行していたというし、エリトリア独立に絡む内戦も落ち着いたはずなのにと思っていたら旅のプロKさんが一週間交渉してビザを取ってきた。彼の話ではどうも受付のお姉さんがなぜか旅行者に嫌がらせをしているらしい。今年になってから彼を含め3人の日本人がビザを取ったが、数え切れない旅行者がお姉さんとの戦いに破れ消えていったという。

要するに交渉能力のないヤツにはビザは取れないというわけか、おもしろいじゃない。じゃ「Kさんはどうしてビザをとったの?」と聞くと「確かにお姉さんは一見、無敵に見える。しかし彼女のやっている事を上司は知らない。そこを突けば彼女は落ちる」と言う。なるほどそれにしてもKさんどうやって大使館の内部事情を掴んだんだろう?。 

翌日、考えられるすべての攻撃に対する答と相手をハメる言葉のワナを携え僕は大使館に乗り込んだ。しかしお姉さんの先制パンチはいきなり僕の予想を越えるものだった。「あなた日本人?残念ね、当大使館はケニヤとタンザニヤの住人にしかビザを出さないの」ゴメンね」

なるほど、できる!しかしまだまだ勝負はこれからだ。「えー、そんな!去年は取れたはずですよ、、いつからダメになったんですか?」「今年からよ」フフフ、かかったな。「えっ!おかしいな?1/4にCさん、1/5にKさん、1/11にTさんがビザここで取ってるんですけど?」さあどうする?。「あら、そんな事知らないわ。あなたの勘違いじゃない」「えっ、あれ?すいません、それじゃ今年のビザ取得記録見てくれませんか?名前あると思いますよ。」「知らないって言ってるでしょ!ビザ欲しいんなら日本に帰って取ってきなさい。」

くくくく、この野郎。どうする?感情的にさせるとまずいなと思ってるとそこに白人が入ってきた。驚いた事に彼女は彼のビザ申請用紙を受け取った。さあチャンス到来だ「お姉さんどうして彼にはビザだして僕にはださないの?」「あら彼はケニヤの住人よ」「そう、でもそのパスポートにカナダって書いてない?」「でも彼はケニヤの住人なの」

一体この女は何を考えてるんだ?こうなったら仕方ないKさん伝授の技をだすか?「すいませんお姉さん、あなたの説明は良く分からないのでビザ部門の人に直接聞いてみます。ありがとう」と言った時だった。

突然お姉さんは「待って!」という悲痛な声を上げた。勝った!と思った。「なにか?」と振り向くと彼女は怒りに震えていた。しかしその口からはKさんに言った「申請用紙はそこにあるわ」というセリフはでなかった。この時点でもうこっちも手は出し尽くした。後は自力の勝負だった。

彼女の上司、ビザ部門の人間、日本大使館まで巻き込んだこの戦いは実にこの後、5日にも及び勝利した僕がビザを受け取るために再び大使館に行くとタンザニア人がビザ申請に来ていた。その彼にお姉さんはまたもや「当大使館はケニヤの住人にしかビザを出しません」と言い放ち、それからこちらをちらっと見てニヤリとした。“一見さんお断り”か!おもしろいなと思い。僕も思わずニヤリと笑い返した。

 

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