10のツボ トラブル

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海外にあって日本にない物、その一つが銃だ。まー日本にもあるにはあるんだけどヤクザ屋さんでも実際ほとんど使わないからあってないようなものだ。よく刑事ドラマで撃ってるけど本物はあんな派手な音はしない、なんかもっと無機質な乾いた音だ。もし撃ってみたいならワイキキでも撃たしてくれる場所がある。いやそれどころかパキスタンのトライバルエリアでのバズーカの撃ち方っていうのが安宿の情報ノートに書いてあったし、崩壊後のロシアでは金さえ払えばミグにも乗せてくれると聞いた。

自分の体験で言うと僕が初めて銃を手にしたのは今から13年前、ロスだった。コルトの22口径、おもちゃみたいだなと思った。その銃の持ち主は空手の先生でその人は僕に「それを持つなら撃つのをためらうな、ためらったら負けだ」と言った。

負けがなにを意味するかはいうまでもない。しかしその瞬間、同時に僕は人を裁く力も手にいれてしまった。後は覚悟だけだった。しかし本当に銃を持っている彼等にはその覚悟があるのだろうか?もしあるならとてもじゃないがかなわない。平和と自由を声高らかに歌うアメリカの笑顔の影には力の裏付けと自信があるのだ。

そのアメリカで交通違反で何度か問答無用のホールド、アップをくらった。しかし最初は分からなかったが慣れてくるとサングラスの下に隠されたポリスの緊張や恐怖が分かるようになった。なんかホッとした。やっぱりみんなこわいのだ、そりゃそうだろうこれはテレビドラマじゃないのだから。

これが中米に入るとまた状況が変わる。ベリーズからグアテマラの国境を越えて少し行った山中でいきなり10人ぐらいのマシンガンで武装した少年兵士にバイクを取り囲まれた。軍?ゲリラ?いずれにせよ圧倒的な力関係である事には違いなかった。しかしそれより怖かったのが中学生ぐらいの子供の判断にすべてを任せるしかなかった事実だ。

この人気のない山中で何があっても理由はどうでも付けられる、しかも正義は権力を背景に持つ彼等にある。幸いにも彼等はただの真面目な少年兵だったが僕は最後まで彼等を信じられなかった。なぜアメリカのポリスは信じられてグアテマラの軍は信じられなかったのか?自分に中に差別意識があるのじゃないか?とその時は思ったが、そのうちそれでいいと思うようになった。

なぜか?実際どうしようもないクズ警官や軍人が世界にはいっぱいいるのだ。むしろ困った時は警察が助けてくれるなどという甘さや盲目的信用のほうがよっぽど危ない。パナマの空港でヘルメットを持って歩いていた時、警官に「免許証拝見」と呼び止められた。免許証を渡すとしばらくそれをいじくっていた警官は「お前をスピード違反で逮捕する」と言った。なんかマンガみたいな話だがこれは実話だし、そんなに珍しい事じゃない。

途上国に行くならこの事を頭にいれておいて欲しい。“彼等の一ヶ月の給料より一瞬外人をビビらしたほうが金になる”こんな連中は適当にあしらってやればいいが、ただ彼等が武器を持っている事はお忘れなく。武器は進化するほど実感がもちにくい。その最たる物がボタンひとつで作動する核兵器だろう。

実際銃を手にしてもなぜかナイフほどの怖さが感じられない。多分本当に使うまでそれが何なのか分からないのかもしれない。サンパウロでだらけていた頃、ある殺人事件があった。殺されたのは肉屋のオヤジで犯人は7才のストリートチルドレンだった。事件のあった日はたまたま買い物にはいかなかったけど、当時自炊していた僕はその店にも良く行ったしオヤジとも顔見知りだった。

それからしばらくしてその店に行くと、オヤジのいた場所にはかわいい日系の女の子が店番をしていた。あたり前だけどあの無愛想なオヤジはもういないのだ。事件のあったのは夜7時、僕がそこにいても何の不思議もない時間だったし、その場にいて彼の変わりにこの世から消えていてもおかしくなかった。それでもなぜか僕の中ではオヤジがそこにいない事実以外は何も変わらなかった。ただ分かったのは明日は我が身かもしれないということだった。

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