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確か吉田たくろうの歌に「旅の宿」という曲があった。バイク旅行していた僕には宿に泊まるというより泊まった所が旅の宿だった。

オーストラリア西部の砂漠でキャンプした時の事、夜中ふと妙な気配に目がさめるとテントの外にあきらかに生き物がいる。一瞬にして睡魔は吹っ飛んだ。耳に神経を集中するまでもなく、その熱い息やさくりと砂を踏む音が聞こえる。「これは一体何なんだ?この足音からするとかなり大きい動物に違いない。しかしこんな砂漠にそんな生き物がいるのか?どうする?向こうはすでにテントの中の僕の気配に気付いているはずだ。気配を消して待つか?それともデカイ音を出してびびらすか?」

頭痛が起こるほどの緊張感を感じながら音を極限まで殺して首だけを上げ、暑さのために開けはなしておいた入り口を見るとすぐそこに大きな二つの光る目がある!ウッと思わず唸ってしまった時、さらにそいつは身構える暇も与えず一気にテントに侵入してきた。パニックになりかけた僕を尻目にその大きな黒い影は足元にしゃがみこみクゥーンと甘えた声をあげた。

僕に心臓マヒ起こさせるほど驚かせた生き物はただの飼いイヌだった。しかしその恐怖と緊張感は映画「ロストワールド」でT.REXがキャンプ場に現れるシーンぐらいの迫力があった。

テントで寝たことがあるだろうか?僕は誰でも小学校や中学の課外授業で経験あるものと思っていたら案外そうでもないらしい。テントで寝たことがある人は知っていると思うが、テントなんてただの薄っぺらい布にすぎない。前述のような事態には対処できないのだ。でもそれがあるとないでは安心感が全く違うからおもしろい。

嘘だと思うならためしに寝袋だけで寝てみるといい。星空を見ながら眠ると言うとカッコいいが実際やってみると蚊に悩まされたり寒かったり、そして何よりも回りから無防備な自分がまる見えである事の怖さを感じると思う。もともと人間も自然の中で暮らしていた頃はいつも外敵に襲われる危険があったわけで、その記憶が外敵から身を守るための宿を欲しているんだろう。

日本では水と安全はタダだと外人に言われることがある。その意味はそれらが貴重な世界に行くと身にしみて良く分かる。そしてすべてが当たり前に揃った一流ホテルでは気付くことのない宿の本質や安全について考えずにはいられない。

僕は旅行中に随分いろいろとおもしろい所に泊まったし、また泊めてもらった。でもやはり宿とは何かを考えると野宿にいきついてしまうのだ。僕は野宿をするうちに、寝ていても自分の周囲10メートルぐらいに生き物が近付くとなんか気配がわかるようになった。こう言うとオカルトめいてるがそれどころか目に見えない存在の気配を感じることも出来た。

昔、僕が兵庫の山奥の工場で働いていた時、自称、白魔術師と名乗る怪しいおじさんがいた。その人が別れ際に僕に『野宿しようとした時もし嫌な感じがしたら絶対そこには泊まるな。そこにはかならず何かが居る』と言った。僕もまさにそのとうりだと思う。でもその鋭かった第六感も今は眠っている、きっと都会ではあまりいらないのだろう。

最近シルクロードをひとりで歩き通した旅行者が日本に帰って来て東京で18000円の破格の安下宿に入ったと聞いて、旅仲間が『日本の貧乏下宿の住み心地はどう?』っと聞いたら彼は『最高すっよ!なんせ屋根があるんですから』と答えたらしい。

まさに「お見事!」といえる名言だと僕は思うが皆さんはどうでしょう?

 

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