13のツボ ツワモノたち 1

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 途上国を走っていると思わぬ所で日本人女性と会ったりする。そんな時ひとり旅の女性の精神的なタフさによく驚かされる。彼女達のような旅行者は人に頼らず、ほとんどの事は自分で解決してしまう。しかし中には何ひとつ自分で解決せずして旅ができるという究極の旅のツワモノもいる。今回はそんな旅人についての話です。


日本から送ったバイクの調子がみたくて3日ほど南アフリカの北東部を走り、また港町ダーバンに帰ってくるとYHの受付の大男ウィリアムが「よく帰ってきてくれた」と嬉しそうに出てきた。しかしなんか様子がヘンだ。どうかしたのか聞くと、彼は「いや昨日、日本から女の子が来たんだけどなんか泣いてばかりいるんだ。みんな心配して話しかけてるんだけどどうも英語が全くしゃべれならしくて何言っても"SORRY"しか言わないんだよ。それでとにかく明日になったら日本人のバイク乗りのシンゴが帰ってくるから大丈夫だよとずっと言ってたんだ。」と言う。そしてすぐにウィリアムに連れられて現れた女性は「日本のかたですか?ああ良かった。ホッとしました。。私ハルミっていいます。」と言うといきなりホロホロ泣き出した。

なにがなんやらワケが分からないのでとりあえずビールを頼んで話しを聞いてみると、お父さんがラグビー監督でお兄さんがジュニアのチームで平尾とポジションを争った名選手という環境で育った彼女はどうしてもラグビーのワールドカップが見たかった。でも親が南アフリカに行く事を許してくれなかったので嘘ついてひとりで来たらしい。

しかし実際来てみるとどうしたらいいのか分からなくなってしまったというのだ。話を聞いているといつのまにかウィリアムやYHの客が集まってきて心配そうに見ている。みんな彼女が何を言っているか気になって仕方ないようなので通訳するとその場で国際的な彼女の保護者の団体ができあがってしまった。

彼女は明日のイングランド対フランスをどうしても見に行くという。ひとりで行かせるのは不安でしかたないのでYH内で手分けして誰か試合を見に行く旅行者はいないかとあたってみたのだが残念ながら高い切符を買ってまで試合に行くヤツは誰もいない。その時、前の通りで銃声が響き騒ぎが起こった。本当に彼女をひとりで行かせていいのだろうか?

翌朝ハルミはPLEASE SELL TICKETと画用紙にマジックで書くとそれだけを持ってウィリアムの呼んだタクシーで競技場へ向かった。それを見送った僕らは彼女が臆病なのか度胸がいいのか分からなくなりますます不安になった。

その日、暗くなっても彼女は帰ってこなかった。彼女の保護者多国籍軍は心配しながらも彼女の為に晩メシを作っている。それからしばらくして帰ってきた彼女はYHに入るなりまたもやいきなり泣き始めた。「一体どうしたんだ。?」と驚いた外人連中に彼女は「競技場でワケが分からないでうろうろしていたら親切な白人が切符をくれ黒人がここまで送ってくれたんです。それが嬉しくって私ってみんなに迷惑ばっかりかけてゴメンナサイ」と言った。

僕はなんか通訳しててバカバカしくなってきたが外人連中はその話におおいに感動したらしく“信じられない!。日本人ていうのは、なんて繊細なんだ。”とくちぐちに言い合っている。そして翌朝、彼女は別の試合を見るためにあっさり飛行機で去っていった。

しかしその後思いもかけない事態が起こった。彼女の保護者のひとり、僕と同室の南アフリカ人のエイブが急に日本に行くと言い出したのだ。冗談だろうと思っていたらどうも本気らしく「車とバイク売ったら航空券買えるだろう。俺はハルミと結婚して日本に住む、彼女は遺跡発掘のバイトなんかしてるより台所にいるべきだ。」などと言っている。

呆れていると今度はマイクまでが「エイブが行くなら俺も行く、なぁシンゴ、あんな純真な子がいるなんて日本はほんと素晴らしい国だなぁ。」と言い出した。ハルミおそるべし!周囲を幸せな気分にさせながらしっかり使う。意識してか無意識かは分からないがこれもひとつの理想的な旅の形・・・なのかもしれない?

(時は95年夏、南アフリカ共和国はラグビーのワールドカップで沸いていました。坪井の観戦した日本対ニュージーランド戦は145対17でNZが勝ちました−雑用係注)

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