37のツボ ガス欠

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『ガガガー』、アラスカーカナダ間の国際フェリーの扉が下ろされると外はベタつく朝霧で真っ白だった。すでに雪が降り始めていたアラスカに比べればカナダはまだまだ暖かいらしい。船内で知り合った外人連中に別れを告げ、NX650のエンジンをかける。目指すはカナディアンロッキーだ。                          

朝の町を抜けて坂道のカーブを回ったときに霧の中にガスチェックという標識と5という数字がチラッと見えた。取り敢えずガソリンはまだ余裕がある。そのまま道なりに標高を上げていくとやがて霧が消え始め、今まで見えなかったフィヨルドが作り出す美しい谷が現れる。なんとも気持ちいい道だ。僕はさらにスピードを上げた。と、そこまではカッコよかったのだが、おかしな事にいつまでたっても町が現れない。

なんか不安になってきたのでバイクを止めて地図を取り出してみる。現在地はよく分からないけど港から50キロは走っているはずだ。                              『もしかしたらあの5って150キロの5か?・・ほんならガソリン持たんわ。そやけど今やったら、まだ港に戻れる。どうしょう?・・。いやー大丈夫やで。あるよ多分』  ところがそのえー加減な読みはやっぱり大甘だった。現実には町にガソスタなどなく、しかももう一度燃費を計算してみると港まで戻るガソリンすらない。

こうなったら選択肢は一つ。次の町にガソスタがあることにかけるしかない。『ガンバレNX!』祈るような気持ちで慎重にアクセルを開け、ガソリンをロスしないような安定した走りを心掛ける。やがて町が現れた。ゆっくり走り抜けるがやはりガソスタはない。『まずい!』泣きそうな気分で次の町を目指す。それから20分、『ガボッ』という嫌な音とともに何もない森の中でエンジンが止まった。海外で経験する始めてのガス欠だった。

 港にあった標識が150だとしたら、ガソリンのある町までまだ40キロもある。もうこれはそこまでヒッチしかないだろう。覚悟を決めると気が楽になった。それから待つこと30分、通りがかった一台目の車が幸運にも止まってくれた。ヒッチは止める方も止まる方も結構緊張するものだが、ドアを開けてくれたのが人の良さそうなジッチャンだったのでまずはホッとする。

車で行けば40キロなんてあっという間だ。ガソリンスタンドで捨ててあったポリタンクにガソリンを入れてもらい、今度は逆に今来た方角向けてのヒッチ再開だ。この道は思いのほか交通量があるようで帰りもすぐに車はつかまった。止まってくれたのはインディアンのいかつい夫婦。乗せてもらっておいてこんなこと言うのもなんだがジッチャンと違ってこの二人はなんか不気味だ。

そこでなんとか雰囲気を変えようと話しかけてみた。なぜか返事はない。しかもそのうち車は車道をはずれて山道を上り始めた。  『なんやこれ?。まずいんちゃうん?』。焦るこっちをあざ笑うかのようにさらに山奥へと進む車はやがて山中の3軒だけの村の広場で止まった。              

『待ってろ』オジサンはそれだけ言いのこすとひとりで車を降り、一軒の家をノックした。すると中から乱杭歯で出腹で目付きの鋭い、絵に書いたような悪役顔の男が顔を出す。二人は何やらニヤニヤしながら、こっちを指して話を始めた。             

『やべぇー。ここで銃を出されたらもうアウトや。一体何の相談してんね?僕の金を山分けにする打ち合わせか?だいたいその笑いはなんや?』二人の様子を見ていると妄想がどんどん膨らんでいく。そしてついに話がついたのか出腹男はポケットに手を突っ込んだままこっちに向かってきた。『来た!ヤバイ!』もう心臓はバクバクだ。

目の前まで来た男はガラスをコンコンと叩くと隙間だらけの歯を見せてニッーと笑った。 『なーんだ、いとこのサムかと思ったで。そっくりだな、お前』なんじゃ−そりゃ!。思いっきりガクッとした。三人はただ顔が怖いだけのいい人だった。

 

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