35のツボ 山賊ロード

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ケニヤ北部炎熱のシャルビ砂漠を抜けマルサビットという町に着いた。標高があるせいで気温は寒いぐらいだ。情報によるとここからエチオピア国境までは二六〇キロしかないのに、トラックで一四時間もかかるという。なぜだろう?。そんなひどい道なんだろうか?。

出発の準備をしていると自称ガイドというヤツが現れてマルサビットーモヤレ間は山賊が出るので車はコンボイ(武装兵を乗せた車を前後につけ集団で走る事)で走ることになっている。今日のコンボイはもう朝早くに出たけど、私と一緒なら今からでも検問を通してくれるはずだと言った。今日中にエチオピアに入国しないとケニヤビザが切れてしまうのに。朝からまいったね、こりゃ。                        

 『でもオッチャン、ガイドといってもどうやって一緒に来る気なんだ?』『バイクの後に乗って行く』『そりゃ無理だ。荷物がいっぱいあるから』『そうか、じゃ仕方ないか。今からでもきっとコンボイに追いつけるよ。それじゃ幸運を祈る』。幸運を祈るってアンタ、ウーム。ともかく行ってみるか。まぁ本当に危ないなら、この人も自分からガイドをかってでたりしないだろう。町を出て少し行くと警察の検問があった。そしてガイドに聞かされた通りのセリフが出た。さぁてどうしよう?                 

 『今日中にケニヤを出国しないとビザが切れるんだよ。なあに心配ないって僕のスーパーバイクなら一時間もあればコンボイに追いつくから、そしたら一緒に走るよ。なっ!それでいいだろ』と得意のハッタリで警察は説得したのだがやはり怖い。一体ヤツラはどんな攻撃を仕掛けてくるんだ?弓とか槍の原始的な攻撃なのか?それとも狙撃してくるのか?

検問を越えて走り出すと背丈ぐらいの灌木が生える荒野には予想通り車なんて一台も走ってなく、恐怖のせいだろうかふと気付くといつの間にか自分の走りの限界までバイクのスピードが上がっていた。『何してんだ!こんな所でこけたり壊したりしたら、ますます逃げ場がないじゃないか。もうちょっと落ち着けよ』自分に言い聞かせてアクセルを戻すが、それでも道端の木陰や石の影から誰かが狙っているかもしれないと思うと、またスピードが上がっていく。たまらんな、この緊張感。しかしとばしたおかげで本当に約一時間ほどで朝早く出たというコンボイに追いついた。

噂通り最後尾のトラックには武装した兵士がマシンガンを持って屋根の上で頑張っている。その姿にホッとして間に紛れ込んだのだが、五分も走るとその異常な遅さについていけなくなった。さらにトラックは一台、また一台と次々にパンクや故障を起こして止まり、やがて信じられないことにすべてのトラックが壊れた。どうしよう?。本当は修理を待つべきなんだろうが、待っているほうが余計狙われる気がする。

よーし、行ってまえ!。冷や汗をタラタラ流しながら単独でしばらく走るとまた検問にぶちあたった。『なんだお前、なんでひとりで来たんだ?』『いや途中までトラックと一緒だったんだけど、あいつらが次々壊れるから先に来たんだ』『そうか、しかしここから先は一台では絶対通すわけにはいかない』『分かった。でも山賊って一体何なんだ。そんなに危ないのか?』『ああ。この先で二か月前に兵士が一人殺されたばかりだ。ヤツらはエチオピア内戦後に民間に闇ルートで流れたマシンガンで武装してるんだ』。なんだそりゃ!山賊ってそこまでヤバかったのか。                 

 結局トラック五台がそろうまで一時間半かかった。気合いを入れ直し、再び走り始めるが集団の間に入ると砂ぼこりが強烈で何も見えなくなる。その様子を見ていた先頭のトラック上の兵士から一番前に出るようにと合図が出た。しかしこの場所じゃ山賊の的になっているようなもんだ。ともかくすぐ後に武装兵の乗っているトラックが走っているので兵士のマシンガンの射程距離内をミラーで確認しながら走る。そしてその日の夕方ついに恐怖の山賊エリアを越えエチオピア入国を果たした。あーしんど。なるほど、これじゃ一四時間かかるはずだ。

 

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