20のツボ 部品
旅する冒険ライダー 坪井伸吾のページです

 

 

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このコーナーは確かバイクの話だったはずなのに、私物化してしまって最近話がすぐ違う方へと行ってしまう。何を隠そう先々月の特攻隊の話も実はゴーマニズム宣言の戦争論の影響をモロに受けてつい書いてしまった。まぁ言い訳はこのぐらいにして今回は久し振りにバイクネタです。


今まで何回も話してますが、僕は天性のメカオンチです。バイクで世界一周してきてそんなはずないだろう、とよく言われるのですがでも本当だから仕方ない。それじゃそんな僕が海外でメカトラブルを起こした時にどうやって切り抜けて来たのかをひとつ紹介します。

昔、南米のチリとアルゼンチンの国境付近の森の中を走行中いきなりチェーンがはずれた事がありました。まだ新品のチェーンがしかも走ってテンションがかかっているのにはずれるというのはどう考えてもおかしい。それでよくよく見てみるとリアタイヤのベアリングがつぶれて糸みたいになって、そのせいでタイヤが横にふらついてチェーンがはずれたようです。これはどうみても直せないと思いました。そこから一番近くの町までは約50キロぐらいだったのですが、その町でベアリングが手に入るとはとても思えない。しかも交通量は限りなくゼロに近い山の中です。さてアナタならこの状況からどうやって脱出しますか?ちょっと考えてみて下さい。

直せないなら出来る事はとりあえず人のいる場所に出る事でしょう。しかしここには通常の交通手段はないし、車は来ないからヒッチは出来ない。歩くのにはかなり厳しい。となるともう意地でもバイクを動かすしかありません。この状況まで来ると人間案外何とかするものです。そこでメカオンチの僕が最初にしたのは針金でホイールとスプロケを固定する事でした。しかし5キロも走ると針金はぶち切れました。硬いから切れるんだと思って、次は弾力性のあるワイヤーでくくったのですがこれもダメ。

仕方ないので思い切って発想を変え、タイヤがふらつかないように、ベアリングがなくなってできた隙間にトイレットペーパーをぎゅうぎゅうに詰めてみたら意外にも少しは進んだのです。結局、すぐに紙では車重を支えられないと分かったんですが発想の方向性としてはいけそうなので、何かいい物はないか?とカバンの中を探すとベアリングが抜けた穴にちょうど合いそうなセロテープがあった。それをナイフで加工してはめるとなんとこれがピッタリ、かくして大都会サンチャゴまでの1200キロをこれでのりきったのでした。

こんな話をメカニックにしたら怒られるかもしれないけど、この時僕が思ったのはメカ知識だけで物が手に入らない状況をクリアー出来るか?という素朴な疑問です。日本でもしバイクが壊れたら携帯でバイク屋に助けを求めたらそれで終りです。確かにそれだけでも苦痛には違いないけど、こういうバカげた発想をする機会はない。僕は途上国を走っているうちにスゴい不思議な事実に気が付きました。なぜかそれらの国では部品が手に入らなくてもバイクが直せるのです。その答えはもの凄く単純にして驚異的な原理。“ない物は作ればいい”でした。

実際、僕は南米ボリビアの鉄工所でスピードメータケーブルのギアを作ってもらった事があります。その時僕は修理不可能な部品を見て、これはもう日本かアメリカに注文を出して、大金を積んでも取り寄せるしかないと思っていたので、この『何言ってんの作ってやるよ』と聞いた時はまさに目からウロコ状態でした。そういえば昔、田舎のおじいちゃんの所へ遊びに行くと僕も自分で竹トンボとか作って遊んでました。その時は自分でおもちゃを作るのは当たり前だったし、大事にせざるえないから自分なりに修理もしました。

だけど新しい物を買う方が安くなってからは僕を含め多くの人がそんな発想とか技術も忘れてしまったようです。途上国を走ってたら純正の部品なんて何の意味もありません。車の部品でも何でもいい、使える物があればそれだけで充分ぜいたくなのです。でもその事を思い出したせいで僕はますますメカの勉強する気を失い、なんとかなるさ病はさらに進行してしまったのでした。

 

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