16のツボ ミニバイク

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最近神戸に引っ越したので今は窓から海が見えている。僕は和歌山市でも海に近い所で育ったせいか小さい頃から海が大好きだった。そもそも最初にバイクに乗りだした動機も遠くまで釣りに行けると思ったからだ。でも実際乗ってみるとバイクは単なる便利な道具じゃなかった。


ただ走るだけで充分楽しいのだ。しかも予備校に通っていた当時、原付はメットなしでも乗れたので本当に風が気持ち良かった。ある日、土曜日の授業の後、僕はなんとなく隣町の海南市に来ていた。自慢のタクトにとってその程度の距離は楽勝だった。まだ日は高く力も有り余っていたのでもうちょっと走ってみたくなった。しばらく走ると今度は2年前にキャンプした有田川に着いた。昔はとてつもなく遠かった有田川にこんなにあっさり来れた事が信じられなくて嬉しくてそして怖かった。

それからはただ夢中だった。熱に浮かされたように走り続け気が付けば日が沈む頃にはなんと紀伊半島の最南端まで来ていた。こんな事ができるんだ!なんか涙がでそうな感動の瞬間だった。しかし太平洋に沈んで行く夕日を見ながら僕は思った。『しまった!金がない。』

そうなのだ。こんな所まで来るとは想像だにしていなかったから泊まる金を持ってなかったのだ。かといって今から和歌山市まで帰るのかと思うと新ためてその遠さにゲロが出そうだ。なんか急激に襲ってきた疲れから判断停止状態に陥った僕は意味もなく行った事のない三重県を目指して走りだし、そのうち疲れ果てて新宮市の公園で寝た。翌朝、蚊に刺されまくってお岩さん顔になった僕はさらに奈良を抜け24時間後には家に帰ってきた。全行程500キロの初めてのバイク旅行だった。

今年の春、海外をバイクで走っている人達のキャンプというのに来ないかと石川県の世界一周ライダー高橋さんから連絡が入った。久し振りに一般道をひた走り伊豆まで行ってみると季節はずれのキャンプ場に気合いのはいったバイクが集まっていた。そういえば高橋さんが旅に使ったバイクも110ccという小さいバイクだったのを思い出し『そういやなんで110なん?』と聞いてみると『ん?だってなんか隣町に行く感覚で走れるのっていいと思いませんか?』という答えが帰ってきた。

僕はそれを聞いてなんだか嬉しくなってしまった。さすが高橋さん!簡単な答えだけどまさにその感覚こそ原点だと思う。しかし実際問題として広大な海外を走るのには小さなバイクは余りにもデメリットが多い。まず小さいバイクは荷物が余り積めない、タンク容量及びスピードの問題で長距離は走りにくい、海外では普及していないタイプが多いからパーツが手に入りにくい、トラックなどから見えにくいため事故に巻き込まれやすい、軽いため盗難されやすい..など言い出せばきりがない。

しかしそこまで分かっていても何を隠そう僕自身も小さいバイクで旅をしてみたい。小さなバイクの魅力、それは逆説みたいに聞こえるかも知れないがノロさかもしれない。乗り物は速いほど楽なほど回りが見えにくい。見えていても見ていないからだ。逆にスピードが遅ければ遅いほど自分に対する負担が多いほど嫌でも周囲が見えてくる。飛行機より車、車よりデカいバイク、デカいバイクより小さいバイク、さらに自転車、徒歩、デメリットが多いほうがより魅力的な気がする。

11年前オーストラリアをXJ750で走っていた時、50ccのモトラで走っている藤原さんにあった。その頃毎日7、800キロ走れる750のパワーにすっかり酔っていた僕には敢えて非能率的な走りをする藤原さんが理解できなかった。帰国してからアウトライダーに掲載されていた彼の文章に「自分は何をしても不器用で少しずつしか進めない。だから自分と同じようにゆっくりとしか進めないモトラが好きだ。」と書かれているの見てもそんなもんかなとしか思わなかった。

でもこの頃その気持ちも分かる気がする。怖いほどのスピードを楽しむのもバイクの魅力なら反対に止まりながら道端の人と話しながらゆっくり進むのもバイクの魅力なのだ。

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