12のツボ 事故

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去年の11月、1号線で車とぶつかった。相手がウインカーを出さずに突然に左折したのでノーブレーキで突っ込んでしまったのだ。車の左側のガラスをハンドルで全部ぶちわった僕はすぐに救急車で運ばれ生まれて初めて松葉杖を使う羽目になってしまった。

しかし昔、京大の前で泥酔運転で100キロでこけた時もケガしなかった僕は事故よりも自分がケガをしたという事実の方にびっくりした。振り返ってみればバイク歴15年で事故13回というのはほとんど毎年やっているんじゃないのか?この学習能力のまるでない猿以下の走りについてはちょいと考えさせられた初めてのケガだった。

さてこの事故が日本じゃなかったらどうなるだろう?。今から11年前シドニーでタクシーに追突された事がある。事故があったのは小雨の降る夜中の1時頃、下りの緩やかなカーブで道の右側にある(オーストラリアは左側通行)知り合いの家にいこうとウインカーをだし、ブレーキをかけてセンターラインに寄せた時だった。いきなりドカンとやられた僕はバイクと一緒に吹っ飛ばされ、体をあちこち削りながら下り斜面を滑っていった。幸い後に乗せていた友達は突っ込んできたタクシーに気付きぶつかる前に忍者のように飛び下りていたのでケガはなかった(教えてくれよ、ったく!)。

この時の救急車は異常に早かった。僕を起こしてくれた隊員は「大丈夫か?」と優しい言葉をかけてくれたのだが「大丈夫です。」と言った瞬間、なぜか救急車は去っていってしまった。一体今の救急車は何?WHY?と思ってると今度はパトカーが来た。

オーストラリアだから当然、英語で事情聴取される訳だがこれは外人には本当不利だ。案の定ここで今まで全くしゃべらなかった運ちゃんは全身を使って自分の正当性を主張した。しかしあちこち痛い上に雨に打たれて疲れ切ったこっちは言いたい事の10分の1も言えない。

これからどうなるんだろう?と思っているとなぜかさっきの救急車がまたやってきた。「乗れ」と言われて開けた扉の向こうではすでに重症患者がベットの上で呻いている。なんと!救急車の相乗りだ。深夜の救急病院ではどうやら重症者が優先らしくベットに乗った患者は慌ただしく病室へと消えていった。この日は事故の多い日だったらしく次々と患者が運ばれてくる。僕も早く診てもらいたいのだがどうやらそれどころじゃないようだ。

ぼんやり待っていると頭から血を流している男がこっちに向かってずんずん近付いてきた。びびっている僕の目の前に来た男はニャッと笑い「俺、先に行ってもいいか?」と言った。どうみても彼の方が重傷だった。

翌日、翌々日取り敢えず僕はタクシーの運ちゃんからの連絡を待った。しかしいくら待っても電話はかかってこない。一体どういうことなんだろう。事故の状況からすると明らかに向こうが悪いのだからワビのひとつもあってよさそうなもんだが。ともかく相手の連絡先が分からなかったので警察で事故の記録を調べてもらった。ついでにあの時一体どんな調書が取られたのか?見せてもらおうと思ったのだが調書は保険屋にしか見せるわけにいかないらしい。しつこく食い下がっているとバカな外人扱いされて笑い者になってしまった。

そうこうしているうちにワビどころかタクシー会社の方から修理代の請求が来た。もう何がなんだか訳が分からない。もしかしたらこの国では追突する事より急ブレーキの方が悪いのか?と思って法律を調べてみたがやはり追突の方が悪い。もう我慢も限界だ。こうなったら戦うしかない。

しかしどうする?。相手は海千山千のタクシー屋だ。マトモにいったらどう考えてもこっちに勝ち目はないし、しかも悪い事に僕の保険は対物に入っていないので使えない。とにかく修理費以前にまずは最低でもあの運ちゃんには謝ってもらわないと気がすまない。場合によってはケンカもありえる。

作戦はこうだ!タクシー会社に乗り込んで運ちゃんを呼び出す、事故について反省してるか聞く。誠意を見せないなら交渉決裂だ。でもいきなりぶん殴るとこっちが悪者にされるからまずは相手に殴らせる。そのためにこれを言ったら相手が切れるだろうという英単語をオーストラリア人に聞きまくった。しかし、いざタクシー会社の前にたつとやっぱり怖い。びびりを押さえるのに会社の周囲をぐるぐる回ってるとだんだん腹立ってきた。そして運ちゃんの顔を見るともう自制がきかなくなった。

「こらぁ、お前なんのつもりじゃ!」投げ付けるように言うと、運ちゃんは「あ、あれは仕方なかった。かわせなかったんだ。保険の用紙用意するから修理代請求してくれ」と言った。

多分これが彼のせいいっぱいのワビだろう。その人の良さそうな顔ににじんだ“すまん””といった表情をみると上げかけた手も降りてしまった。外人は基本的には本当に失敗したと思ったら絶対謝らない。非を認めるならその非に対しての責任を取るのは当然で相手に何を請求されても仕方ないという発想だ。ここで謝るという事についての文化の比較についていいだすと長くなるのでやらないが、ともかくもし海外で事故にあってしまったら自分が悪くても簡単には謝らない方が無難という事を知っておいてほしい。

The Gakushin 1998年7月号

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