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メトロポリタンオペラ便り「ワルキューレ」 2

手塚 代表取締役名誉相談役


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 一方相方のジークリンデを歌ったダレイマンがまた素晴らしかった。やや陰りのある太めの声を持つソプラノだが、きわめて安定した歌い方で微妙なニュアンスを歌い分けている。最強音ではターボ装置がついているかのように駄目押しで会場を突き抜けるようなフォルテッシモが出る(このとき若干声が荒れて絶叫に近くなるのがやや気になったが、出ないよりは出るに越したことはない)。
 さらに進行していくと眼前のバスチューバが鈍重かつ野卑なファンファーレを奏でる中、フンディングの登場である。このミリングのフンディングがまた素晴らしく良いのである。深々としたバスの声と堂々の体格、ハゲ頭が若干気にはなるものの、気品のある立派な声がホールに響いて舞台を引き締めるのに一役買っていた。

 ワルキューレ第一幕はこの水準の3人が揃えばもう恐いものはない。加えてゲルギエフ指揮するオーケストラが、意外や意外、実に繊細かつ精妙な響きを奏でて、このロマンティシズムの匂い立つ、ワーグナーが書いた中でも最も美しい幕を支えていく。
 有名な「剣のモチーフ」を奏でるオーボエやトランペットのピアニシモがなんと美しく響いたことか。この幕はかつて1967年にカラヤンがザルツブルグ復活祭音楽祭を立ち上げた際、オペラ伴奏が初体験のベルリンフィル(普段はシンフォニー中心に演奏している)を使って、ワーグナーを室内楽にしたと言われるほど透明で精緻を極めた響きを実現し、聴衆の度肝を抜いたのだが、今宵のゲルギエフはその路線を踏襲したかのように繊細かつ美しい伴奏を奏でていく。「ウェルズングの動機」や「愛の動機」を奏でる独奏チェロの切ない響きのなんと美しいことか。

 さて第一幕は次第に盛り上がり、ジークムントとジークリンデの兄妹による運命的な禁断の愛の二重唱に入り、ジークムントが聖剣ノートゥングをトネリコの木から引き抜く大団円となるのであるが、ここはドミンゴ、ダレイマンの見事な歌唱により実に感動的な幕切れとなった。終演後、とても第一幕が終わっただけとは思えないくらいの、われんばかりの拍手とブラヴォーの嵐となり、会場が総立ちで主役3人(もちろんお目当てはドミンゴだが)への絶賛を浴びせていた。これで今日の上演は終わったかと一瞬錯覚させられるくらいの騒ぎであった。
 しかし冷静になってよくよく観察すると、ドミンゴはさすがに老獪な歌手である。この第一幕のジークムントをオーケストラと本気で張り合ってエンジン全開で歌い切ってしまうと、おそらく第二幕まで声が持たなくなる恐れがある。1時間を越える第一幕の登場人物がたった3人で、しかもジークムントは出ずっぱりの歌いっぱなしなのである。もともとバリトンに近い太い立派な声を持つドミンゴなのでオケに負けずよく声も通るのだが、よくよく考えると声を保持するためにかなりメリハリをつけてコントロールして歌っているのがわかる。

 幕の半ばで盛り上げる有名な「ヴェルゼ!ヴェルゼ!」の叫びは、まるでイタリアオペラのアリアの頂点のように引っ張り、堂々のベルカントのフォルテッシモでメトの会場を圧倒した。聞かせどころである。一方、終盤でノートゥングを引き抜く際の「ノートゥング!ノートゥング!」は決して絶叫しない。ここで全力を出さずに声をセーブしておき、幕切れの「ウェルズングの血よ、栄えあれ!」ではじめてフォルテッシモで絶叫するのである。
 ちなみに「ウェルズング」と引き伸ばす音はAで、「ノートゥング」のFより3度高く、ジークムントの歌う音程で全曲中の最高音となっている。前出の「ヴェルゼ」の叫びはG♭、Gで「ウェルズング」より低い。いずれにせよイタリアオペラのハイCのような曲芸はワーグナーでは求められていない。さすがのドミンゴもあの年ではハイCは難しいかもしれない。

 有名なショルティの指輪のCDなどを聴くと、この場面でジークムントは一貫してフォルテで絶叫しており、ノートゥング引き抜きのシーンなど舞台が崩れるかと思うくらいの大音響の弦楽総奏を突き破って歌っている。しかしこれでは実際の舞台では声が最後まで持たないだろう。
 今回のドミンゴの歌い方が気になって後日ブライトコップのヴォーカルスオアを確認したところ、実はこの「ノートゥング!」の場面の強弱指示はスフォルツアンド、つまり頭だけフォルテでアクセントを置いてとなっており、フォルテで歌い通すようには指示されていない。ドミンゴ・ゲルギエフは楽譜に忠実だったのである。
 大見得を切る聞かせどころではホールに響き渡るベルカントで歌い、そうでないところは不必要に力まずメリハリをつけていく。これが限りなく本番を踏んできたドミンゴの、ベテランとしてのテクニックなのだろうと改めて感心した。それにしてもドミンゴ、もう64才なのだそうだがなんとも立派なものである。

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