ラグランジュの未定乗数法 Lagrange-Multiplier Method

cf. n変数関数のラグランジュ未定乗数法
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定理:条件付極値の1階の必要条件(ラグランジュの未定乗数法)

 条件g(x,y)=0のもとで関数f(x,y)が点P( x0 ,y0 )で極値をとり、
 
gx ( x0 ,y0 )0またはgy ( x0 ,y0 )0ならば(少なくとも一方がゼロでないなら)、
 λを定数として次の式が成り立つ。
   
f x ( x0 ,y0 )−λgx ( x0 ,y0 )0 ―@
   
f y ( x0 ,y0 )−λgy ( x0 ,y0 )0 ―A
 しかし逆に、この式を満たす点
P( x0 ,y0 )が、極値であるとは限らない。
  (上の等式は、条件付極値の十分条件ではない)
 利用法:
 条件付極値を求めるときは、
  
(1) 等式@Aと条件g( x0 ,y0 )=0を連立させて、x0 ,y0,λについて解き、
  
(2) (x0 ,y0)は極値の候補であるが、極値とは限らないので、本当に極値であるかどうか吟味する。 
 

 利用例:
 (ex-1)正の定数rにたいして、x2+y2=r2 上でのxyの最大値・最小値を求めよ。
  [和達『
微分積分』239;矢野田代『社会科学者のための基礎数学』97;竹之内『経済・経営系数学概説』117.]

  条件g(x,y)= x2+y2r2= 0のもとで、関数f(x,y) = xyの条件付極値の1階の必要条件を求める。
   
gx ( x ,y )=2xgy ( x ,y )=2yを同時に0にする(x,y)=0x2+y2= r2上にはないので、 
  
gx ( x ,y )0またはgy ( x ,y )0が成立。
  よって、
  条件
g(x,y)= x2+y2 r2 = 0のもとで、−@
  関数
f(x,y) = xyが点P( x0 ,y0 )で極値をとるならば、
  ラグランジュの未定乗数法より、
   
f x ( x0 ,y0 )−λgx ( x0 ,y0 )=y0−λ2x00 ―A
   
f y ( x0 ,y0 )−λgy ( x0 ,y0 )x0−λ2y00 ―B
  点
P( x0 ,y0 )は@を満たすので、 
   
x02+ y02 r2= 0  −C
   よって、
3元連立方程式ABCをx0, y0,λについて解けば良い。
  Aより、
y0=λ2x0 これをBに代入して、x04λ2x00  
  
(14λ2) x00 
  Cより、
x00 だから、
  
14λ20 ゆえに、λ=±1/2
  
(i)λ=1/2のとき、
   ABから 
y0x0 。これを、Cに代入して、
   
x02 = r22 
    
   よって、条件付極値の1階の必要条件を満たす点は、
     
   このとき、
     
f(x,y) = xy= r22
  (ii) λ=1/2のとき、 
   ABから 
y0=−x0 。これを、Cに代入して、
   
   よって、条件付極値の
1階の必要条件を満たす点は、
     
   このとき、
     
f(x,y) = xy= r22
  立体グラフ 

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 (ex-2)正の定数rにたいして、x2+y2=r2上でのx+yの最大値・最小値を求めよ。
  [小形『多変数の微分積分』192.]
  条件g(x,y)= x2+y2r2= 0のもとで、関数f(x,y) = x+yの条件付極値の1階の必要条件を求める。
   
gx ( x ,y )=2xgy ( x ,y )=2yを同時に0にする(x,y)=0x2+y2= r2上にはないので、 
  
gx ( x ,y )0またはgy ( x ,y )0が成立。
  よって、
  条件
g(x,y)= x2+y2 r2 = 0のもとで、−@
  関数
f(x,y) = x+yが点P( x0 ,y0 )で極値をとるならば、
  ラグランジュの未定乗数法より、
   
f x ( x0 ,y0 )−λgx ( x0 ,y0 )=1−λ2x00 ―A
   
f y ( x0 ,y0 )−λgy ( x0 ,y0 )1−λ2y00 ―B
  点
P( x0 ,y0 )は@を満たすので、 
   
x02+ y02 r2= 0  −C
   よって、
3元連立方程式ABCをx0, y0,λについて解けば良い。
  ABより、
x01(2λ) 、y01(2λ)  
  Cに代入すると、
  
  λ
2=1/(2 r2) 
  
  ABに戻して、
  
  よって、条件付極値の1階の必要条件を満たす点は、
    
  このとき、
    

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(証明1〜全微分から) [Chiang, 369-387; 和達『微分積分』239]
 条件g(x,y)=0のもとで関数f(x,y)が点P( x0 ,y0 )で極値をとるということは、
 点
P( x0 ,y0 )におけるg全微分dg =gx( x0 ,y0 ) dx + g y ( x0 ,y0 )dy = 0  ―@
 を満たす
dx,dyに関して、
 点
P( x0 ,y0 )におけるf全微分df = fx ( x0 ,y0 )dx + f y ( x0 ,y0 )dy = 0  ―A
 となるということ。
    ∵
g(x,y)が一定ならば、g(x,y)全微分は常にゼロ。(逆は必ずしも成り立たない)
 (i) 少なくとも gy ( x0 ,y0 )0である場合
  @を変形して、
dy = gx( x0 ,y0 )dx/g y( x0 ,y0 ) 
  これをAへ代入して、変形していくと、
  
fx( x0 ,y0 ) dx + f y ( x0 ,y0 ) (gx( x0 ,y0 )dx/g y ( x0 ,y0 )) = 0
  fx ( x0 ,y0 )+ f y ( x0 ,y0 ) (gx( x0 ,y0 )/g y ( x0 ,y0 )) = 0 (両辺をdxで割った)
  fx ( x0 ,y0 )= f y( x0 ,y0 ) (gx( x0 ,y0 )/g y( x0 ,y0 ) )   (移項しただけ)
  
fx ( x0 ,y0 )/ gx ( x0 ,y0 )= f y ( x0 ,y0 )/g y( x0 ,y0 )   (両辺をgxで割った)
  ここで、λ
=fx ( x0 ,y0 )/ gx ( x0 ,y0 )= f y ( x0 ,y0 )/g y ( x0 ,y0 ) とおくと、
  二つに分けて書けて、
  λ
=fx ( x0 ,y0 )/ gx( x0 ,y0 )、λ= f y ( x0 ,y0 )/g y ( x0 ,y0 ) 
  これを整理すると、
   
f x ( x0 ,y0 )−λgx ( x0 ,y0 )0 
   
f y ( x0 ,y0 )−λgy ( x0 ,y0 )0 
 
(ii) 少なくとも gx ( x0 ,y0 )0である場合
  @を変形して、
dx = gy( x0 ,y0 ) dy/g x( x0 ,y0 ) 
  これをAへ代入して、変形していくと、
  
fx ( x0 ,y0 ) {−gy( x0 ,y0 ) dy/g x( x0 ,y0 ) } + f y ( x0 ,y0 )dy = 0
  fx( x0 ,y0 ) {−gy( x0 ,y0 )/g x( x0 ,y0 ) } + f y( x0 ,y0 ) = 0 (両辺をdyで割った)
  fy( x0 ,y0 ) = fx( x0 ,y0 ) {gy( x0 ,y0 )/g x( x0 ,y0 ) }    (移項しただけ)
  
fy( x0 ,y0 ) /gy ( x0 ,y0 )= fx( x0 ,y0 ) /g x( x0 ,y0 )    (両辺をgyで割った)
  ここで、
   λ
= f y ( x0 ,y0 )/g y( x0 ,y0 ) =fx ( x0 ,y0 )/ gx( x0 ,y0 ) とおくと、
  二つに分けて書けて、
  λ
= f y ( x0 ,y0 )/g y( x0 ,y0 ) 、λ=fx ( x0 ,y0 )/ gx( x0 ,y0 ) 
  これを整理すると、
   
f x ( x0 ,y0 )−λgx ( x0 ,y0 )0 
   
f y ( x0 ,y0 )−λgy ( x0 ,y0 )0 
  
  

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reference

Chiang, Fundamental Methods of Mathematical Economics: Third Edition, McGraw Hill,1984,pp.369-387.全微分から説明。
和達三樹『理工系の数学入門コース1・微分積分』岩波書店、1988年、p.135;239全微分から証明。
矢野健太郎・田代嘉宏『社会科学者のための基礎数学 改訂版』裳華房、pp.95-7.

竹之内脩『経済・経営系数学概説』新世社、1998年、pp.114-117。
高橋一『経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、pp.163-166。陰関数定理・合成関数の微分則を使用。
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年、pp.178-180. 結果だけ簡潔に。

小形正男『理工系数学のキーポイント7:多変数の微分積分』岩波書店、1996、pp. 205-211. 背後にある陰関数定理・逆関数定理から説き起こしている。しかし、極値の必要条件に過ぎない点を、明記していない点に注意。
西村和雄『経済数学早わかり』日本評論社、1982年、pp.153-166。.
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、pp.285-299.2変数関数の条件付最適化を例にとりながら、n変数関数の条件付最適化問題についてのラグランジュ乗数法を説明。
高橋陽一郎『岩波講座現代数学への入門:微分と積分2』 岩波書店、1995年、pp.115-117。
高木貞治『解析概論 改訂第三版』岩波書店、1983年、pp. 320-323.「陰伏関数の極値」
杉浦光夫『解析入門』岩波書店、1980年、pp.151-152.  ただし、f:Rn→Rnの逆関数(逆写像)。
杉浦光夫『解析入門II』岩波書店、1980年、pp.30-33.  
奥野正寛、鈴村興太郎『ミクロ経済学』岩波書店、1985年,pp.289-292.