ウインドトーカーズ

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監督・製作ジョン・ウー
製作テレンス・チャン
脚本ジョン・ライス&ジョー・バッター
音楽ジェイムズ・ホーナー
キャスト
ニコラス・ケイジ
アダム・ビーチ
ロジャー・ウィリー/クリスチャン・スレイター
マーク・ラファロ/ブライアン・ヴァン・ボルト/ノア・エメリッヒ
マーティン・ヘンダーソン/フランシス・オコーナー
公式サイト
http://www.foxjapan.com/movies/windtalkers/

 第二次世界大戦。激戦の続く太平洋の島々に真っ先に上陸し、過酷な戦闘を繰り広げる米海兵隊員たちの中に、少数のネイティブ・アメリカンの姿があった。文字で記録されたことのない言葉を話す彼ら、ナバホ族の若者たちは戦闘の最前線にあって貴重な情報を伝達するために彼らの言葉を暗号として使っていたのだ。彼ら、"コードトーカーズ"の存在とその"コード"が敵の手に落ちれば、前線で戦う海兵隊の情報は敵に筒抜けになってしまう。そのため、特に選ばれた海兵隊員が、彼らの護衛役として常にその傍らにあった。彼らの任務は"コード"の存在の完全なガード。必要とあらばコードトーカーを殺してでも、暗号の秘密は守らなければならないのだ。

 今、サイパンに上陸する海兵隊員に混じって二人のナバホ族の姿があった。もちろん彼らを"護衛"する兵士とともに。だが護衛役の兵士の一人、ジョーは以前のソロモン諸島の激戦で部下をすべて失い、自らも重傷を負ったことが重いトラウマとして心にわだかまったままの状態だったのだ…

 鬼才ジョン・ウー監督の戦争大作。実際に太平洋戦争では、ナバホ族が前線からの暗号通信を担当していた、ってのは「クリプトノミコン」でも語られたりするし、確か日本でも、どの戦争だったか失念してしまったのだけど、海軍が通信の秘匿性を高めるために薩摩弁で通信を行っていたという事実があった、てな話を聞いたことがある。そいつを下敷きに、いかにも「男たちの挽歌」の監督らしい、男臭い友情物語を作って見せたのがこの映画。

 「プライベート・ライアン」以降、アメリカ製戦争映画は戦場において虫けらみたいに死んでいく一兵卒たちの運命のあっけなさと悲惨さを、すごく乾いたタッチでこれでもかと見せまくる傾向が強くなったように思うんだけど、この映画にもそういうところはある。しかも監督はジョン・ウー。その他大勢はもうぼろぼろになって死んでいく。同じく東洋人の監督作品と言うことが原因してるのかどうかわからないんだけど、この映画じゃあたとえばロングショットで日本軍の陣地をなめて撮るシーンがあると、そこではしっかり「いそげ、いそげ!」とか日本語が聞こえるんだよな。このあたり、なかなか複雑なものを感じてしまうけど、まあこの辺はしょうがないんだろうな、オレも日本人だからな。

 映像的には非常によくやってると思った。日本兵も(当時の状況考えたらタフすぎるんじゃないかと思えるぐらい)"敵"としてしっかり描いてるし、海兵隊の十八番である空陸の連携攻撃の絵も迫力がある。爆弾落とすのがどう見てもF6Fなのが気に入らん(海兵隊なんだからF4Uが飛んでこなくっちゃ)けど、すごい迫力だ。客を驚かすテクニックもニクい。充分に平均点以上の映画だと思う。んじゃ「こいつはすごい映画だー」と大喜びしたかと言えば、残念ながらそこまでは行かなかったかな、って感じ。

 ちょっと前に根岸泉さんが"戦争映画を評価するポイント"として、

  1. 戦争を賛美していないか
  2. 国威発揚の具になっていないか
  3. 物の見方が一方に偏っていないか
  4. リアルか

 って条件をあげておられたけれど、この4つのポイント、「ウインドトーカーズ」は一応しっかりクリアしていると思う。ただ、それは、ハナから戦争映画で勝負する気がなかったスタッフがラッキーだけだったような気がするんだな。暗黒街が戦場に変わっただけというか。なので戦争映画のためのカタルシスがちゃんと用意できていない。ビスマルク砲台がどかーんと行くわけでもなく、ナバロン砲がどかーんと行くわけでもなく、ただ、いつものように激しい戦闘があり、そのさなかで生き残るものもあれば死んでいくものもある、ってのが語られるだけな訳で、それはそれ自体重い話ではあるんだけど、最後のカタルシスに欠ける。ここは(とりわけエンタティンメント寄りの)戦争映画にとっては致命的なんじゃないかな。

 漢の友情を描くって部分についても残念ながらちょっと舌足らず、というか舌が長すぎた感じがする。そもそも全体に尺が長すぎると思った。テーマがテーマだし、そのテーマのバックグラウンドになるものが戦争という重いものであることを考えるとこうせざるを得なかったのかもしれないけど、うーん、もう少し短くできたんじゃないかな。最終的にこれ、「長い」ってのが一番の印象だったのですわ。素人考えかもしれんけど、ジョーのリハビリ期間の描写(とそれ以降の彼女がらみの手紙のシーン)はもっとばっさり切っちゃっても良かったんじゃないかな。あと、ベンとチックのとっくみあいとかも。全体に文句はないんだけど、「その話はもういいよ」って気になってしまうところは結構あった。これと最後のヤマになる部分の盛り上がらなさがちょっと辛かったかなあ。

 いずれにしてもこのタイプの、最初はニヒルな主人公が最後に「もう誰も死なせない!」とか言い出す話って、んじゃあそれまでに死にまくった人間たちはどうなっちゃうのさ、って所に思いが行っちゃうと、とたんに冷水ぶっかけられたような気分になっちゃうわけで、難しいとこだわねえ。

 あ、言い忘れてたけどこの映画には一点、評価すべきポイントがある。それは字幕。松浦美奈さん、という方が字幕を担当されているのだが、それプラス、監修、という形で、軍事サスペンスや戦争アクションものの翻訳で知られる伏見威蕃氏の名前もクレジットされていること。専門用語が多いためだろうけれど、こういうのはほかのジャンルの映画でもやってくれていいのではないかな。SF映画なら浅倉久志さんが監修に付く、みたいな感じで。

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