英国海軍の雄 ジャック・オーブリー(1)
パトリック・オブライアン 著/高橋泰邦 訳
カバーイラスト Geoff Hunt
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫NV
ISBN4-15-041025-9 \720(税別)
ISBN4-15-041026-7 \720(税別)
時代はまさに19世紀が始まった頃。ヨーロッパにはフランス革命の嵐が吹き荒れ、野心を持った軍人にとっては一世一代のチャンスが転がるその時代、ジャック・オーブリーはどちらかと言えば出遅れた野心家だった。海軍軍人として、操艦術や海上での駆け引きには非凡なものを持っていた彼だが、敵ではなく味方と対峙したときの一言多くなってしまうその性格が災いし、同期の軍人たちからの一歩後を追いかけるような毎日。そんな彼にもようやくチャンスが巡ってきた。小さいながらも自分の指揮艦を与えられることになったのだ。スペインの拿捕艦、スループ型ブリッグ、ソフィー号を得たオーブリーは、勇躍地中海に出帆するのだが…。
英国よりも先に、アメリカで人気が出て、来年夏にはラッセル・クロウ主演の映画も公開される運びになったという帆船ものの海洋冒険小説。主人公、オーブリーが、能力は抜群だけどデブで金の亡者だったり、その良き相棒となる船医マチュリンがシャア+テム・レイみたいな渋いインテリゲンチャだったりってあたりのキャラクタ造形の魅力が効いてるんだろうな、と思う。実際"ホーンブロワー"や"ボライソー"ものの主人公ってのは、基本的に孤独な存在、って部分が前に出てしまって、その孤高ぶりが確かにヒロイックで格好いいわけではあるのだけれど、実際の人間はそうでもないだろーって気になってしまう時もあるわけで、そこらの不満にうまく割り込んできた作品といえるかも知れない。
主人公、ジャックの親友となる船医、マチュリンが船で暮らすってことについては全くの素人で、この設定をうまく使って黄金時代の帆船のメカニズムやそこで生きる乗員たちの生活に詳しい解説を入れてくれるのもなかなかええ感じにサービスが効いてると思う。
ただその分、この手の帆船小説としてはお話を盛り上げる部分に少々希薄なものがあるなあという感じも同時に持ってしまう。パターンがパターンとして機能していないが故にどうにももどかしいというか。このあたりは続刊でどう変化するのか、見てみないとわからない部分ではあるのだけれど。
親本は1993年に徳間書店から出たものらしいんだけど、そのときの評価はどうだったのだろう。この先(全20作らしいんだが)続きがすべてちゃんと訳出されるのか、ってとこも含めてとりあえずは様子見ですな。そういやトマス・キッドものはどうだったのよとか、なにかとこのジャンル、先行き不透明ではあるよなあ。
02/12/24