ルナティカン

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神林長平 著
カバーイラスト 藤原ヨウコウ
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫JA ISBN4-15-030712-1 \580

楽園は、下にある

 地球向けの高機能アンドロイド生産を一手に握る、月面の大企業LAP社。今ここでは、自社製の養育型アンドロイドを使い、捨て子だったひとりの少年、ポールを育てていくという実験が行われていた。それは"すべてに完璧"をモットーとするLAPの、完璧な技術力を誇示するためのキャンペーンだったが、地球人ジャーナリスト、リビーにとっては許し難い非人道的行為に映るものだった。単身乗り込んだ月世界で取材を開始するリビー。だが月におけるLAPの支配力は絶大で、たちまち取材は壁に突き当たってしまう。そんなとき彼女の前に現れたリックと名乗る男。ポールを陰からガードする探偵だという彼の口からは、ポールと、そして月の世界にまつわる驚くべき秘密が語られるのだった…。

 「蒼いくちづけ」などと同じく、以前に光文社文庫で刊行されていたシリーズの一冊。このとき刊行された他のタイトル同様、神林作品としては小振り、かつ読みやすいものになっている。お話のテーマになるものも、いつもの「存在」と「情報」からは少し距離を置いた感じ。少年の名前がポール、ってとこからしてパーカーの名作、「初秋」を連想する人もいるかもしれない…のはオレだけか。そのうえで(距離を置いたとは言っても)やっぱり「自分とは」のお話に流れが戻ってくるあたりは、いかにも神林長平と言えるかな。

 ストレートでシンプル、かつオーソドックスなSFで、それ故に物足りないってのはなんだか著者に悪いような気もするけど、今の神林長平でこれはないよな、ってのも確かにある訳で、この辺は再販ものの辛さと言えるかも。ただ一点、神林SFと言う点において不満が残るという、なんだか不遇な一冊。全然悪くないんだけど、飛び抜けてこれやー! ちう部分がないのも確かなところで。

03/03/22

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