ブラディ・リバー・ブルース

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ジェフリー・ディーヴァー 著/藤田佳澄 訳
カバー写真 ©KAMIL VOINAR/amana images
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫HM
ISBN4-15-079559-2 \940(税別)

フェアに行こうよ

 ミズーリ州マドックス。そこは発展し損ねた、"デトロイトの失敗版"とも言うべき街だった。目立った産業も、観光施設も持たない田舎町。そんな田舎にちょっとしたにぎわいが訪れていた。売れっ子監督によるハリウッドの大作映画のロケ隊が、新作映画の撮影のためにこの街にやってきていたのだ。そのクルーの中に、ロケーション・スカウトを担当するジョン・ペラムの姿もあった。監督のイメージに合うロケーションを見つけ、このちにクルーを導いたことで彼の仕事は一段落する。あとは契約金を受け取るまで、気のあった仲間とビール片手にポーカーでもしていればいい。街に出かけビールを買い込んで自分のキャンピングカーに戻ろうとするペラム、だが停車していたリムジンのドアが突然開き、ペラムのビールは台無しになってしまう。文句をつけるまもなく走り出すリムジン、あっけにとられるペラム。だが、そのリムジンが直後に発生した殺人事件に重大な関連があるものであることがわかったとき、ペラムはあっけにとられるだけでは済まない苦境に自らが立っていることを悟るのだった…

 てことで「ヘルズ・キッチン」に続くジョン・ペラム物の邦訳第二弾。こちらはシリーズ中でも第二作に当たるもの。元々はウィリアム・ジェフリーズ名義で1993年に発表した作品で、ディーヴァー名義では同じ年に「死の教訓」が発表されている。「死の教訓」が、まだ近年ほどのディーヴァー作品の底意地の悪さを持っていない頃の作品、しかも別名義ってことでこちらのお話は、かなりディーヴァーらしさは希薄。良くはわからないのだけどウィリアム・ジェフリーズを名乗るディーヴァーは、ディーヴァー作品よりは少しばかり軽い、ありがちなヒーロー物を書く作家、みたいなイメージを用意しようと思っていたのかな。ディーヴァー名義でこれをやったらちょっと…なんだけどこれはこれでおもしろい話になりそうでしょ、なんてなノリ。

 全体に、もっとおもしろくなったんじゃないかなあと言う感じがするお話になっているな。映画を作る現場、というちょっと通常からは離れた世界に身を置く主人公、しかも彼が今就いているロケーション・スカウトという仕事自体も彼の気持ちの中では必ずしも天職と言えるものじゃあない、みたいな背景とか、それなりに魅力的な設定がいろいろ用意されてるんだけど、どれもあんまり深くつっこんだところまで語られないあたりが辛い。事件で負傷し、半身不随に陥ってしまうが、ペラムと友情をはぐくみ、陰から彼を支えてくれる警官、ドニーもすごくいいキャラなんだけど、どこかでもう一歩、突っ込んだ描き込みをしてほしかったなあ、と。全体として、良くできてはいるんだけどパッケージとしては安手のペイパーバック、と言うイメージがぬぐえないのだね。

 もちろんペイパーバックを悪く言う気はないんだけど、だったら本書のカバー、タイトルよりも著者名、しかも実際の著者の名ではないそれが大きく印刷されてるってのはどうよ、と思っちゃうわけで。ウィリアム・ジェフリーズ(as ジェフリー・ディーヴァー)の小説である、としてくれたらそれで、なんの問題もないのにな。何たってそこは元がディーヴァー、最終的にはペイパーバックとしちゃあ上等すぎるレベルまで、お話を持って行ってくれてるんだもんなあ。

 ま、売れなきゃ本屋さんも困るわけで、そのためには使える弾は何でも使うぜ、ってのも仕方のないところではあるんだろうけど、一升庵の清さん風に言うなら、「こんなもんじゃ語れやしませんぜ、ディーヴァーの料理は」って所なんだけどな。これが"ウィリアム・ジェフリーズの本"なら、わたしゃ何の文句もないんだけどなあ。

03/03/10

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