真空ダイヤグラム

ジーリー・クロニクル(2)

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スティーヴン・バクスター 著/小野田和子 他 訳
カバーイラスト 撫荒武吉
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011430-7 \820(税別)

果てしなき流れの果てに

 スクウィーム、クワックスという異星種族による過酷な支配時代を経て、ついに謎の超種族、ジーリーに次ぐ宇宙航行種族の地位にまで上り詰めた人類。今や人類は次に乗り越えるべき相手をジーリーに定めた最後の闘争に臨もうとしていた。だが、当のジーリーたちには、人類には想像もできない壮大なプロジェクトがあったのだ………という歴史を背景に、100万年に渡る人類の物語を描く連作シリーズ。前半の「プランク・ゼロ」がハードSFの奇想を次々と繰り出してきた短編集であったとしたら、こちらは人類の未来史に壮大な奇想を持ち込んだ連作集といえるか。

 人類を含む既知の宇宙に住まう生物たちとは全く異なる形態を持つ生命体、"フォティーノ・バード"とジーリーの、時空までもひっくり返す勢力争いの前では、一度は人類を征服したスクウィーム、クワックス、ついにはジーリーに匹敵する文明を築いたかに思えていた人類でさえ巨大な宇宙の中ではまだまだちっぽけなものでしかなかった、などという展開はいかにも英国SFだよなあ。これがアメリカーンなSFだったら、たぶん最後に人類はジーリーの遺志を継いで、フォティーノ・バードに雄々しく立ち向かっていくようなエンディングになってたかもしれない。

 後半、いったんは徹底的に敗北した人類の生き残りがそれでも生き延び、もう一度「文明」と呼べるもののとっかかりを掴もうとしていく下りが実に感動的。SF的なハッタリは控えめなんだけど、その分、たとえ原始人みたいになっちゃっても、それでも人類は前に進もうとする気概は決して失うことはないのだ、というメッセージを(かすかに)残して数百万年に渡る人類の物語はいったん幕を閉じる。けしてそれは明るい未来というわけではない(というかむしろ、行き着く先にはやはり滅亡が約束されてはいる)けれども、壮大な、人類のいる宇宙の生から死への歴史を、少々早足ではあるがたっぷりと楽しめる短編集。なかなかよござんした。

03/02/20

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