輸送船団を死守せよ

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ダグラス・リーマン 著/高津幸枝 訳
カバーイラスト 野上隼夫
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫NV
ISBN4-15-041028-3 \900(税別)

定番だからおもしろいのだ

 トライバル級駆逐艦の一隻、ハッカ号。久々に本国に帰ってきたこの艦には今、艦長がいなかった。先の作戦の際、敵の航空機の機銃掃射によって戦死していたのだ。同じ艦に2年以上副長として勤務しているフェアファックス少佐が次の艦長にふさわしいと誰もが思っていた。だが、海軍本部の決定は違っていた。ヴィクトリア十字勲章を持つ勇士、マーティノー中佐の、その勲章の元となる激戦によって失われた艦の代わりに選ばれたのが他ならぬハッカ号だったのだ。若干の失望とともにマーティノーを迎え入れるフェアファックス、そして「海の勇士」の登場を興味津々で待ち受ける経験豊富なハッカ号のクルーたち…

 つーことでもう、導入部からして完璧なワンパターン。ここに続くのは「勇士」の意外に人間味にあふれた内面に気づき心を開き、信頼を強めていく船員たちの姿だったり、失敗を繰り返しながら成長していく新米兵士だったり、ちょっと複雑な事情を抱えた謎を持った兵士だったり、主人公たちにとっては敵と同じぐらいやっかいな上官だったり、まあこの手の小説何冊か呼んだ人なら先刻承知のキャスティングと、ストーリー展開が待っている。クライマックスはこれまた定番、極寒の北海でのムルマンスク行き輸送船団の過酷な護衛戦。あらゆる物ががっちりと「いつもの奴」で押さえられている。そんなモノがおもしろいのか? おもしろいんですねえこれが。

 ワンパターンで話が進むってことは、たとえば設定のおもしろさなんかに頼れない分、途上人物たちのキャラクタの書き込みだったり、キャラクタごとの気持ちの伝わり具合や伝わらない具合や、そんなモノを丁寧に描いていかないといけない訳なんだけど、さすがにアレグザンダー・ケント兼ダグラス・リーマン、このタイプの小説をたっぷり書いてるおかげでここらが全くおろそかになってない。いつものように読み進め、いつものように楽しめるエンタティンメントを提供してくれている。わんぱたんもここまでくれば立派な職人芸だと思うね。

 もちろんまったくのわんぱたんじゃあ書く方も読む方もいつかは飽きが来るんで、そこに加えられる微妙なスパイスのさじ加減、みたいなモノもまた、この手のエンタティンメント作家には求められる素養ってことになるんだろうけど、このお話ではハッカ号の戦死した艦長と、新任のマーティノーを、「女運」でつないでみせる、なんて新機軸を持ち込んできてて、そこらもちょっと楽しいかな。

 オレが水モノ大好きなんで、ゲタ履かせてるところもあるんだけど、ワンパターンをしっかりエンタティンメントとして成立しうるレベルの読み物として量産できる作家ってのはやっぱ偉大だと思うですよ。水モノ好きなら、ぜひ。

03/02/28

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