プランク・ゼロ

ジーリー・クロニクル(1)

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スティーヴン・バクスター著/古沢嘉通・他 訳
カバーイラスト 撫荒武吉
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011427-7 \860(税別)

千年オーダーの壮大な未来史

 ついにワームホール・テクノロジーを掌中に収め、勇躍恒星間宇宙に乗り出した人類。だがその歴史は必ずしも平坦なものではなかった。人類を超えるテクノロジーを持った恒星間種族、スクウィーム、続いてクワックスによる苦難の被占領時代、さらには彼らすらその真相に迫ることができないでいる超種族、ジーリーの存在がその後数千年、数万年の長きにわたり、人類の物語の中で大きな影を落とすことになるのだった…。

 「天の筏」「フラックス」「時間的無限大」などが既に訳出されている、バクスターの「ジーリー」ものに属する短編集。これまでに長編として発表されたいくつかの作品が、同じシリーズとはいいながら一作一作のお話の時代はとんでもなく間があいていたりするので、その間に一体人間はどんな活動を行ってきたのか、なんてあたりをうかがい知るには絶好の一冊になっている。

 個人的にハードSFはそれほど得意じゃないし、何人かのきら星のようなハードSF作家の作品群に比べると、どうもバクスターの作品って微妙に押し出しに弱い部分があるような感じを持っていたんだけど、この短編集はかなり、ぶっ飛んだイメージを次々と繰り出してくれて嬉しくなってくる。「数学的生物」なんてのはもう、口に出してみるだけでなんだかワンダーな気分になっちゃうアイデアだよな(理屈はさっぱりわからんけど)。その他、長編でも登場した宇宙生物をそのまま宇宙船にしてしまうスプライン宇宙船とか、まるで'60年代の宇宙SFを彷彿とさせる、宇宙に取り残されたスペースマンたちの脱出行のシンプルなサスペンスとか、どこか悪魔的なイメージもある、黒い翼を備えたジーリーの宇宙船とか、実に盛りだくさん。

 お話がややこしくなってしまう前にすぱっと決着をつけないといけない短編ってスタイルが、バクスターの様々なアイデアの魅力を際だたせているんだろうな。文系型の頭では理解が追いついていけないところも多々あるのだけど、いろんな意味で意識が拡がる感じを味あわせて頂いた。SFらしいSFを読んだって言う感じかな。千年単位での時間経過が人類って種にどういう変化をもたらすのか、って部分の考察も欲しいような気もしたけど、それはまた別の話、ってことなんでしょう。

 現在「ジーリー」シリーズの長編は軒並み絶版らしい。ううむ、ちょっと読み直したいと思ってしまったんだけどな。過去ログ漁ってみたんだけど「時間的無限大」が1995年4月、「フラックス」が1996年2月、「虚空のリング」が1996年10月。「フラックス」と「虚空のリング」は見込み薄いけど、「時間的無限大」より前なら、段ボールひっくり返したら発掘できるかも知れないなあ。今の家に引っ越してから、読んだ本は極力捨てるようにしているんだけど、やっぱり買った本は簡単に手放しちゃあいけないのかな。

03/01/05

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