ザリガニマン

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北野勇作 著
カバーイラスト 菅原芳人
カバーデザイン 菅原芳人(海老原秀幸)
徳間デュアル文庫
ISBN4-19-905080-9 \476(税別)

「いつもどおり」のもどかしさ

 有限会社ムゲンテックの社員、トーノヒトシには一つの才能があった。脳にあいた「穴」を利用して、メカトロニクス体の情報をダウンロード、相手と接続した状態でその相手をコントロールする事ができるのだ。その目的は………良くわからないんだけど。

 その日もトーノヒトシは、新しく作られた白いザリガニみたいな物をコントロールする作業を続けていた。かなりいい感じに動かせるようになってきたかな、って思えてきたそのとき、事件が起こった。突然工場が停電にみまわれたのだ。そのときを境にトーノヒトシのまわりにはなんだか良くわからないことが起きるようになった………いやまあその前から何かがおかしかったのかも知れないんだけど。

 なんてな話。いかにも北野勇作らしい、へらへらとふざけているような描写を続けながらその裏で、微妙な「ずれた」感覚を少しづつ積み重ねていってそれが最後に妙な不安と一抹の悲しみを残すお話。「かめくん」の続編、みたいな惹句もあるけど、そういうのとはちょっと違う感じだ。「かめくん」と対になる部分はあるけど、全体としては「かめくん」のお話の世界とこちらの世界ってのは、そのなんだか判らない不安感みたいな物を部分集合として共有する、北野勇作的世界の中の一部、と言った方がいいのじゃないかな。共有部分がないだけで、その他の北野作品ってのも、なんつーんだろうね、夜店の風船釣りみたいに水槽に浮かんでふわふわぷよぷよと漂う色とりどりの風船みたいなものなんだろう。日常の中にぽっかり現れた異質な世界、それは祭りの間しか味わえないことを知っているが故のちょっとした寂しさ。北野勇作SFってのは祭りの夜店みたいなもんなのかも知れないな。だから私みたいに連続して読んでしまうと、「風船釣りはもういいよ、お化け屋敷はないのかなぁ」なんて不満を持っちゃう、ってことになるのかも。

 いつも通りなんだか軽く、不思議で、不安になって、ちょっぴり悲しい。そこはとてもいいのだけど、もう一声、何か欲しい気がした。「何かって何?」って言われると困ってしまうのだけれども。

03/01/20

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