錬金術師の魔砲

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J・グレゴリイ・キイズ 著/金子司 訳
カバーイラスト 堀内亜紀
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫FT
ISBN4-15-020325-3 \720(税別)
ISBN4-15-020326-1 \720(税別)

もっとワンダーをくれ

 18世紀初頭のヨーロッパ。太陽王ルイ14世の収めるフランスは今、英国の勇将マールバラ公によりヨーロッパ大陸において次々と敗北を重ねていた。このままでは早晩、フランスは英国の軍門にくだってしまう。そんなある日ルイの元に届けられた書簡、それは現状の劣勢を逆転し、英国に大損害を与えることが可能な秘策がある、とする無名の数学者からのものだった。半信半疑のルイの許に参上した数学者ファシオは、かつて稀代の錬金術師、アイザック・ニュートンの覚えめでたい一番弟子であり、いまは彼との諍いから、ニュートンを見返すために究極の兵器を作り出したいのだという。

 ルイの許可を得て究極の"ニュートンの大砲"の開発に取りかかるファシオたち。だがその研究はたちまち暗礁に乗り上げる。その窮状を救うのはこともあろうに敵国英国の植民地、アメリカはボストンに住む14歳の少年、ベンジャミン・フランクリンだった………。

 いろいろ理由はあるんだけど、基本的に"ファンタジー"印の付いた本は読まないようにしているわたくしなんだが、この掴みはあまりにも魅力的。しかもこの、既知の歴史とは微妙に異なる時間軸のヨーロッパで支配力を持っているのが錬金術、と来た日にはあなた。もしかしたらキイス・ロバーツの「パヴァーヌ」プラス、ハリイ・ハリスンの「大西洋横断トンネル、万歳」みたいな歴史改変SFとしてめちゃくちゃ面白いんじゃあないだろうかとひそかに期待したんであった。もしかしたらものすごい掘り出し物かも知れない、と思ってね。

 でもその期待はあっさり裏切られちゃったなあ。おもしろいSFが感じさせてくれるワンダーがこの作品には皆無だ(あ、だからファンタジー文庫なのか)。微妙に異なる時間軸も、拡げようと思えばいくらでも面白い展開を持ってくることが可能な錬金術ってコンセプトも、「ほーら不思議でしょう、こんなものがあるんですよ」以上の説得力をこっちに伝えてくれない。そうじゃないでしょ。どうしてそこで錬金術が世界を支配する第一級の学問になったのかを、たっぷりのホラ話でこっちを煙に巻く芸当を見せてくれないのさ。お話の中で決定的な役割を果たすある秘密結社にしても、いきなり「わたしたちは○○のメンバーなのよ、ほほほ」で済ましてどうすんだよまったく。

 などと思ったらこれ、全四部作の第一部なんだそうで。ああなるほど、続編を読んで行くにつれてこのあたりの謎が徐々に明らかになってくる構成になっているのだな、こりゃ続きも読まなくちゃ………などと誰が思うか。それ以前にお話がダメダメじゃ。続きを読みたいと思う気も起こらんわ。金損した。

02/12/10

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