アトランティスを発見せよ

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クライブ・カッスラー 著/中山善之 訳
カバー装画 岡本三紀夫
デザイン 新潮社装幀室
新潮文庫
ISBN4-10-217026-X \705(税別)
ISBN4-10-217027-8 \705(税別)

 19世紀、南極。氷に閉ざされたアメリカの捕鯨船のクルーが氷原に見た物は、氷に閉ざされた100年以上前の英国の商船だった。おそるおそる船内を探索したクルーたちは、そこできわめて精緻な黒曜石の塑像を発見する。それからさらに100年以上がすぎた2001年、コロラドの廃棄された金鉱で希少な宝石を探索する一人の鉱夫が、鉱山の中に不可解な空間を発見する。見たことのない文字がびっしりと埋め尽くされた壁面の中央にあったのは、かつて捕鯨船のクルーたちが南氷洋で発見した物と同じ、黒曜石の塑像だったのだ。だが、調査に当たろうとする科学者チームに、次々と不可解な妨害工作が………

 「ダーク・ピット」ものの最新作。一時ちょっと、ピットが悪党が相手だったらどんな冷酷無情なことも平然とやってのける、少々酷薄にすぎるヒーローになってしまい、弱ったな、などと思っていたのだけれど、「死のサハラを脱出せよ」あたりから調子は戻ってきて、少々荒唐無稽のそしりは逃れられないとはいえ、肩の凝らない、楽しめる冒険小説シリーズになっているのはうれしいところ。

 このシリーズの一番の特徴はサルベージのプロである主人公、ピットが、何かをサルベージしようとするときに、その対象物がたまたま悪党も何かの理由から目をつけていた物で、そいつを巡って敵と味方が戦いを繰り広げる、って構造にあって、それ故、ピットがサルベージしようとするアイテムってのは、それ自体が歴史的な価値を持つ物であるのに加えて、それといっしょに核兵器を無力化する元素だの、カナダをアメリカに譲渡する、ってな議定書だの、インカ帝国の隠し金鉱だのが隠されているわけだ。で、今回の捜し物は、アトランティス(^o^)。

 しかもここに、アトランティスを一瞬にして滅亡させた物がなんなのか、アトランティスに伝わる秘宝とドイツ第三帝国の末裔たちとの関わり、ドイツ降伏前夜、行方を絶ったUボートの謎、ともうあなた、五島勉さんが書きそうなネタがぎっしり詰まってるんだった(だいたい本書の謝辞は、グラハム・ハンコック氏に対しても捧げられている)。一応アトランティスそのものについては、プラトンが語ったと言われるそれとはかなり異なった物になっていて、そこに新解釈があると言えばあるし、でもこういう説もどこかですでに既出なのかもしれない。それこそハンコックの説ってこういう物だったのかもしれない(いや読んでないんで知らないけど)しな。

 そんなわけでこの本、読む人が読んだらとてつもないトンデモ本なのかもしれないけど、オレは楽しく読ませてもらった。なんと言ってもシリーズ物の強みで、いつものレギュラーがいつも通りのノリで活躍。当然お約束のごとく、ピンチ→逆襲→ピンチ→さらに大ピンチ→負けずに逆襲、大勝利、っていう黄金パターンになってるわけで、ここら辺の話の作り方がカッスラー、なかなかうまいんだ。ここにこれまた定番の宝探しのおもしろさ、ヒチコックよろしくちゃっかり顔を出す原作者と、毎度毎度のお約束的楽しさ満載で、トンデモな設定もそれほど気にならない。長時間の移動の必要がある人の暇つぶしなんかに格好のネタなんじゃないかな、て感じ。なかなか、楽しめるよ。

01/11/19

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