虚空

スペンサー・シリーズ(22)

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ロバート・B・パーカー 著/菊池光 訳
カバー 辰巳四郎
ハヤカワ文庫HM
ISBN4-15-075679-1 \740(税別)

仮面夫婦の和解話…とはちょっと違うか(かなり違うぞ)

 ジムで汗を流しているスペンサーの許を訪れた殺人課刑事ベルソン。彼はスペンサーに自分の妻、リーサが行方不明になっていることを告げる。助けがいるかと尋ねるスペンサーに「自分で探す」と答えたベルソンだったが、ほどなくそのベルソンが何者かに背中から撃たれたという知らせが。瀕死のベルソンからの頼みで、スペンサーはリーサの捜索を開始するが…

 無駄口と食事シーンが一冊の半分を占めているんではないかと思えるボストンの名物探偵ハードボイルド、文庫版最新刊。これまでちょくちょくシリーズに顔を出してきた殺人課刑事、ベルソンが巻き込まれた事件を追う内に、スペンサーはボストンの北の小都市を牛耳る裏組織の暗闘に関わらざるを得なくなっていく。今回はいつものスペンサーの無駄口たたきまくりの捜査と、昔の恋人に拉致されてしまったリーサの孤独な戦いがカットバックでつづられる、ちょっと変わった構成になっている。

 いつもはちょいと顔出すだけのキャラクタにだってちゃんとそれなりにドラマはあるってわけで、スペンサーとは顔なじみのベルソンさん、バツイチでその後かなり若くきれいな奥さんをもらっているのだけど、彼女がどういう暮らしをしてきたのか、って辺りを実はよく知らないままの結婚だったりする。ベルソンもリーサも、互いに相手を深く愛してはいるんだが、それぞれに理由があって、すべてを打ち明けるところまでは行ってない、で、リーサがベルソンに隠しているある事実が事件の引き金になり、さらに事件の展開上も重要な意味を持ってくる、って辺りがスペンサーの調査で徐々に明らかになっていく、ってな構成はかなりうまい。やるじゃんパーカー(何を失礼なことを)。

 スペンサーはハードボイルドのヒーローなので、たとえば社会的弱者とか云われなく差別されている人々がいたときに、彼らを必要以上に強い色の色眼鏡で見ることもしない代わりに、その痛みに積極的に踏み込むこともしない。そういうジャンルに属するヒーローなんだからしかたがないんだけど、ときとして「あんたそれでいいのか?」と思うこともあったりする(『ダブル・デュースの対決』とか)のであるけど、今回はスペンサーにそういうアクションはなかったにせよ、リーサという女性が自分をちゃんと見つめ直し、過去を直視する強さを得ていく話にもなってるって事でかなりいいお話であった。もちろん菊池さんの何か狙ってるとしか思えないカタカナ表記も健在でうれしくなっちゃう。「エインジェル」ときましたか今回は(^o^)。

 それはそうと今回一番気になるのは、スーザンじゃないけどこれだよね。

 「ビルマ?ホークがビルマで何をすると言うの?」

 オレも知りたい。

02/09/24

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