「ダブル・デュースの対決」

(スペンサー・シリーズ 19)

表紙

ロバート・B・パーカー 著/菊池光 訳
カバー 辰巳四郎
ハヤカワ・ミステリ文庫
ISBN4-15-075673-2 \560(税別)

 ほとんどスラム同然のホゥバート・ストリート22番地。その番号から"ダブル・デュース"と呼ばれるこの地域は少年ギャングたちがたむろする危険な地域。ここに巣食う少年たちとも交流のあった14才の少女が、3ヶ月になったばかりの自分の娘ともども、十発以上の銃弾を浴びせられて殺された。ダブル・デュースを教区内に含む教会の神父らが中心となって、この地域の浄化運動に乗り出す。彼らがその困難な仕事を遂行するための切り札として白羽の矢を立てたのは、同じような少年時代を過ごしたタフガイ、ホークだった。ホークは友人であるスペンサーに協力を要請、二人は社会の底辺ですさんだ毎日を送る少年たちに対峙する………

 スペンサー・シリーズの文庫版最新刊。前振りのようなお話なわけですが、実はこれら、すさんだ少年たちに対する救いなんぞそっちのけで語られるのは、スペンサー、ホーク、スーザン、三人三様の"愛"論議。かねがねスペンサー・シリーズ、さらには主人公、スペンサーってえのはそれまでのハード・ボイルドとその主人公たちに見受けられる、"やせ我慢のかっこよさ"とは違うところに魅力を作り出そうとしているように見受けられます。グルメで口数が多く、ボクサーを経た警官崩れでそれなりに知的な私立探偵、スペンサーの魅力がそこにあるわけですが、時として彼は彼が直面している事件をおろそかにしてまで、恋人であるスーザンとさまざまな愛について語り合っているかのような印象を受けてしまうこともあるように思います。

 たとえばですよ、これがヤクザ同士のごたごたに巻き込まれたとか、そういう場合なら、その合間の恋愛談義になんぼ花を咲かせてくれてもいいと思うんですよ。でもですね、今回のように社会の片隅で誰からも見放された毎日を送る少年たちがもがいている、って状況があることがはっきりしているのに、んで、その問題の一環に自分がかかわっているというのに、そっちはほったらかしで自分の恋人とどう付き合っていくかばかりに気持ちを割いている私立探偵が、果たして"新しいハードボイルドのヒーロー"なんでありましょうか(^^;)

 このシリーズ、洒落のめした会話が非常に魅力的で、読むのが楽しいものであるのは確かなんですけど、でもなあ、ときどき「それでいいのかー?」って思っちゃうこともあるんですよねー。いやホント、それでいいのかスペンサー(^^;)?

99/10/21

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