プラムアイランド

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ネルソン・デミル 著/上田公子 訳
カバー写真 ©Super Stock/amana images
デザイン 坂田政則
文春文庫
ISBN4-16-766106-3 \667(税別)
ISBN4-16-766107-1 \667(税別)

軽口特攻野郎ジョン・コーリー

 ニューヨーク市警の腕利き殺人課刑事だった私ジョン・コーリーは、とある事件の捜査中にならず者の銃弾を受けて瀕死の重傷を負った。一命を取り留めて伯父の持つロングアイランドの別荘に引っ込んだ。だがそんなところでくすぶっている私じゃあない。………いかんいかん、そうじゃなく(^^;)。

 伯父の別荘で静養する私の許を、ある日友人でもあるこの地の警察署長、マックスが訪れる。私とも親交のあったゴードン夫妻が、自宅で射殺隊となって発見されたというのだ。殺人課での経験を見込んだマックスは、私に捜査への協力を求めてきたのだった。ゴードン夫妻はロングアイランドの北東に位置する小島、プラムアイランドにある動物疫病研究所に勤務する科学者なのだ。もしこの殺人が、研究所に保管される危険なウィルスや病原菌をねらうものの犯行だったとしたら、いつマンハッタンの上空に炭疽菌がばらまかれるような事態が起きてもおかしくはない。完全に傷が癒えているとはいいがたいが、私はマックスとともに殺人現場の検証に赴くことを承知した………

 名手ネルソン・デミルの文庫版最新作。ただし発表順でいうと、これは「王者のゲーム」の前のお話。この物語のあと、コーリーは連邦テロリスト対策チームの一員となるわけであります。

 と言うわけで主人公が同じである以上、その「感じ」みたいなものも、だいたい「王者のゲーム」で感じたものと同じ。個人的に、デミルの最高傑作は「誓約」であると信じて疑わないオレにとっては、このお話もなかなか楽しめるものではあるのだけれど、完全にのめり込んで読むことはできなかったな。マクラで下手な冗談かましたのも、そういう下手な冗談は物語の読み応えを損ねるだけだよ、って暗に言いたかったわけで(半分ぐらい、信じてください)。

 ただ、同じ主人公のお話なんだけど訳者が違ったことが影響したのか、「王者のゲーム」と「プラムアイランド」の二つのお話、微妙にニュアンスみたいなものには違いがあってそこはちょっと興味深いかな。白石朗氏が訳した「王者のゲーム」は、軽口叩きながらも仕事はばりばり、特に行動の方で見せるコーリー像が浮かんでくるのだけど、上田公子氏訳の「プラムアイランド」の方は、もう少し内面的にいろいろ考えるコーリー像がほの見えてきたりするんだな。もちろんお話の展開でそうなってしまった、って所もあるのだろうけど、それでもやっぱり、ここまでデミル作品の訳を多く手がけてきた上田氏の方が、ちょっと上手にデミル的世界を日本語にしてくれているって感じを持ってしまった。

 お話的には、最初のつかみがとんでもない方向に方向転換してしまったり、敵方がいまいち魅力なかったりで、必ずしも夢中になって読めるタイプのお話ではなかったけれど、「王者のゲーム」のジョン・コーリーよりは、こちらのジョンの方が少し魅力的に感じられたなあ。正しい順番で読んでたら、「王者のゲーム」の感想もちょっと違ったものになっていたのかもしれないけれどね。

02/06/26

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