最果ての銀河船団

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ヴァーナー・ヴィンジ 著/中原尚哉 訳
カバーイラスト 鶴田謙二
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ
創元SF文庫
ISBN4-488-70503-0 \1,260(税別)
ISBN4-488-70504-9 \1,260(税別)

SFとはこういうものだよ、ご同輩

 数千年にわたり、宇宙をまたにかけた通商種族として活動を続けてきたチェンホー船団。今、彼らの大船団はオンオフ星という名で知られる謎の恒星系を目指していた。250年の周期のうち、35年間だけ光を発し、それ以外の期間は暗黒というこの恒星を巡る惑星の一つに、知性を持った蜘蛛型の生命体が発見されていたのだ。異星の生命体との交易から莫大な利益を上げてきたチェンホーたちにとって、この星は新たな富の根元となるはずだった。彼ら同様、オンオフ星を目指す人間型種族、エマージェントの船団を発見するまでは………。

 前作、「遠き神々の炎」からは6年ぶりのヴィンジの新作。ストーリーのバックグラウンドになっている物は前作同様(ただし、時代設定は今回のお話の方がずっと昔、と言うことになっている)。人類が異質の文明を発見、発見した種族は人類とはちょっと違うスピードで進化を続けている、なんてな設定で、最初は「重力の使命」や「竜の卵」みたいなお話なのかな、などと思いながら読んでいった(もちろんその辺のおもしろさもある)んだけど、そういうのとはちょっと違ってたね。ファースト・コンタクトにまつわるハードSF的おもしろさよりも、異なる種族のディティルを縦と横の糸にして、一大サスペンス巨編に編み上げることを目指した作品、といえるかな。有無を言わせぬ思考のアクロバット、って部分よりは、SF的アイデアを縦横に駆使して楽しむ物語。そのための仕掛けがいろいろあってそこが楽しいんだなあ。

 人類がまだ光速を突破する性能を持った宇宙船を持ち得ていない故に、そのクルーたちは交代で冷凍睡眠につきながら航行を続けなくてはならない。その結果、肉体的にはともかく現実としては千年単位の時を超えて存在する人物たちがごろごろしている、というある種科学的な制約を逆手に取った設定ができあがってる。このあたりがまず豪快。ここに、"精神腐敗ウィルス"とか"集中化"とか"ローカライザー"といった、きわめて魅力的なガジェットたちが次々とつぎ込まれ、ホントに久々に「SFを読んでる」ってなわくわく感を味あわせて頂いた。

 欠点はいろいろあると思う。精神腐敗病とか集中化を巡っては、かなり説明がはしょられてる部分があるようにも思うし、お話として伏線がうまく働いてないように思えるところがある、ていうか最大級の伏線には個人的にはもう一声、こっちの注意を惹くサービスがあっても良かったんじゃないかなあ、とか思ってしまった。でも、そういうマイナスを差し引いても、やっぱりこれは良いなあ。特にエピローグ。なんかもう、「星を継ぐもの」以来、個人的には久々に「ええもん読んだなあ」って気にさせてもらえる盛り上がり方ではあった。

 やっぱりSFのラストは、未来とか未知の物とかに限りないあこがれみたいな物をいだかせてくれるエンディングが良いよなあ、と思ってしまった。「意識の拡がるSFが良いSFだ」(©たおさん)ってのを久々に感じたです。素敵。

02/07/17

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