特別執行機関カーダ

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クリス・ライアン 著/伏見威蕃 訳
カバー写真 ©CHRISTOPHER MORRIS/BLACK STAR/PPS通信社
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫NV
ISBN4-15-041011-9 \940(税別)

現代英国の隠密同心

 世界最強の特殊部隊、SASの兵士としてアイルランドでの作戦行動中、心に深い傷を負うこととなったニール。この事件の後、軍を抜け、名家の子弟の集まる学校の体育教師として第二の人生を送っていた彼だったが、その学校で起きた誘拐事件に遭遇したとき、彼の兵士としての本能が呼び覚まされる。首尾良く誘拐事件を未遂に終わらせることに成功したニールだったが、評判を重んじる名門校はこの事件そのものを、あらゆる記録から消し去ってしまいたい。せっかくの第二の人生もあっという間にふいにしてしてしまったニール。昔のつてを辿ってボディガードでもしようかと暗い気持ちで考えていた彼の前に、かつての戦友にして親友でもあった男が現れて………。

 ジョーディー・シャープもので知られるクリス・ライアン。そちらの方は「孤立突破」でいったん打ち止めとし、新たな作風に挑戦しようってことで書かれたのがこの作品。シリーズ化もできそうだけど、この次に控えているのは主人公的にはニールではないみたいなので、別物なのかもしれない。

 んでおこのお話。ライアン作品の魅力ってのは。作家と同じ名前の男が主人公になってるあのシリーズが、やたらハイテクオモチャに頼りまくるのに比べて、ぐっとスケールが等身大に近いところに持ってこられてるあたりにある。そのあたりは本書でも同様、というか前のシリーズの主人公、ジョーディーがあくまで軍人であるのに比べ、今回の主人公ニールと彼が所属する特務機関"カーダ"は諜報部に所属する秘密機関ってことでさらにハイテクのアシストは少なくなり、かわりに(訳者の伏見さんも書いてるけど)「スパイ大作戦」みたいな、チームを構成するキャラクタの描き分けに力が割かれてて、この辺りの描写がちょっといい。ただ、自分の得意の軍隊描写が使えない分、やや平板なスパイものになっちゃったかな、って感じがなくもない。こへんはちょっと惜しいかな。

 いかにも英国製って感じの皮肉な結末も用意されてて悪くはないんだけど、うーん、どういうんだろう、何かもう一つ、ぐぐっと来るものがなかったような感じだなあ。「国家の敵を抹殺する」っていう"カーダ"に与えられた使命に、微妙にうさんくさいものを感じてしまうからかなあ。

02/06/16

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