決然たる出撃

海の勇士/ボライソー(25)

b020405.png/3.9Kb

アレグザンダー・ケント 著/高橋泰邦 訳
カバー 野上隼夫
ハヤカワ文庫NV
ISBN4-15-041007-0 \940(税別)

偉大なるわんぱたんシリーズ、第二部へ

 ナポレオンの権勢もついに地に落ちようとしていた矢先、皮肉にも敵弾に倒れたリチャード・ボライソー。"幸運なる少数"の中心にあった彼の死によって、彼を取り巻くすばらしき男女たちの生活にも大きな転機が訪れようとしていた。同じ頃、そのリチャードが再三必要性を説いてきた、新型のより大きく強力なフリゲートの一番艦、アンライバルド号が完成していた。そしてその艦上には、ボライソー家最後の男、アダム・ボライソー艦長の若々しい姿が………。

 前作でついにその一生を終えたリチャードに代わって、"ボライソー"ものは彼の甥、アダムによって引き継がれることに。これまでにも何度か登場している彼、ファンならおなじみなんだけど、由緒正しい海軍軍人一家の家系でありながら、その父(リチャードの兄)ヒューは英国を裏切って新生米国海軍の軍人になった人物。アダム自身にも、叔父、リチャードに心酔する好漢、ヴァレンタイン・キーン提督の妻、ゼノリアとの密通とそれがもとでの彼女の自殺、という負い目があったりして、若く颯爽としていながらどこか陰も引きずっている人物、というようなキャラクタ設定がされている。このあたりでシリーズの展開にちょっとしたスパイスをふりかけよう、っていう感じかな。

 リチャードが亡くなってまだ日が浅く、アダム自身にもいろいろと引っかかっている物事があるということで、どうしてもお話としては求心力に乏しい部分があったりするのは惜しい(そりゃ、今まで20年かけて24冊読んできた連中に、いきなりオールデーやオザードたちとはこれでバイバイな、とも言えないってのは判るんだけどね)。結果的に主人公としてのアダムのお披露目としては、少々華々しさに欠けるお話になってしまったような気がする。まあアダムというキャラクタ自体、ここまでいろいろと影の部分を引きずってるところ大なので、この展開はある意味仕方がないのかもしれないけれども。

 そんななか、個人的にはリチャードの忠犬って感じだった、で、血縁的にはリチャードの愛する女性、キャサリンを巡る三角関係の反対側にいる事になるかつての副官、ジョージ・エイバリーのその後に少しばかり異議申し立てしたい感じはあるなあ。これ、シリーズの構成上、どうしてもキャサリンが今後どういう身の振り方をしていくかって所を書かなきゃいけないわけで、んでその時にやはり、ターニングポイントになるような大きなイベントが必要なわけで、この必要性のためにジョージはかなりなワリを喰ってしまったような気がして仕方がないここがちょっと淋しかったな。これから徐々に、リチャードと関係のあった人々の出番って言うのは減っていく(それはそれでよい)のだろうけど、エイバリー君へのこの仕打ちは、ちょっとあんまりなんでは、と思ってしまったです。

 それ以外は、いつものボライソーのノリで楽しく読んだんだけど、どうしてもシリーズ刷新に伴うごたごたみたいなものが引っかかりになっちゃったかな、って気はする。

02/04/05

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)