ホームズと不死の創造者

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ブライアン・ステイブルフォード 著/嶋田洋一 訳
カバーイラスト 長谷川正治
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011391-2 \980(税別)

単純なことだよ、ホームズ

 「地を継ぐ者」からさらに2世紀後。ナノテクノロジーの進歩は、人類に何度かの若返りによる長寿を可能としていた。だが、世界がそこに至るまでには地球は何度かの大きな災厄もまた経ていたのだ。そんな世界で不可解な殺人事件が発生する。被害者はバイオテクノロジーを駆使した新種の植物によって、骨以外の全ての肉体を食い尽くされてしまっていたのだ。事件を担当することになったシャーロット・ホームズ部長刑事は、上司であるワトスンの指示のもと、有名なフラワー・デザイナー、オスカー・ワイルドとともに事件の真相に迫るのだが………。

 ホームズ、ワイルド、ギュスターヴ・モロー、ボードレールといったなじみのある名前が続々出てくるけれど、これはSFにありがちなパラレルワールドモノなんかではなく、れっきとした未来SF。シャーロキアンならニヤリとする部分もあるのだろうけれど、わたしゃそこまでホームズモノを読み込んでるわけでもないのでそのあたりのさじ加減は正直良くわからない。タイトルにはホームズの名前がでかでかと出ているけれども、むしろこのお話のキイ・パーソンは、三度にわたる若返り手術を経てなお、美形の洒落者ぶりを失わないフラワー・デザイナー、オスカー・ワイルドだと思えるし。

 前作同様、ナノテクノロジーの驚異的な進歩を背景に展開するテクノ・スリラーという趣なんだけど、前作がどちらかと言えばハードボイルド風味だったのに比べると今回は、いかにもな探偵小説風味って感じかな。ホームズものではきまじめで、その分頭の働きに乏しいサブキャラのワトスンの役所を未来の(さらに女性の)ホームズが演じ、強力な知性と少々壊れた人間性が特徴的なホームズ役を、オスカー・ワイルドの名を名乗る人物が演じてる、ってあたりのキャスティングが面白いかな。ちなみにこの世界のワトスン君はホームズの上司だったりする。

 なんというかスノッブな感じがぷんぷんして来るミステリSFで、なかなか魅力的な設定がされてるんだけど、これがまた前作同様、もう一歩のところで楽しめないのが何とも残念なんだなあ。スノッブには微妙な悪趣味が聞いてないといけないと思うんだけど、そこらがうまくない分、妙にお話の展開が平板に過ぎるものになってしまっているように感じる。いろいろ凝った仕掛けが用意されてるんだけど、もう一つ楽しめなかったな。「人を外見で判断しないのは、底の浅い者たちばかりだ」なんてのはなんとなく「カエアンの聖衣」っぽい匂いもあってちょっとニヤリとしてしまったりもするのだけれど。

 全体にぱっとしたところのない印象。19世紀の文学シーンに詳しい人だと衒学的に楽しめる部分があるのかな。個人的には今二歩ぐらいだな。

02/02/26

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