どんづまり

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ダグラス・ケネディ 著/玉木亨 訳
カバー写真 オリオンプレス
カバーデザイン 上田宏志(ZEBRA)
講談社文庫
ISBN4-06-273320-X \1,200

 アメリカ各地の二流新聞社を渡り歩くわたし、ニック。それなりにキャリアもあるけれど、中央の大新聞に乗り込んで自分の力を試すよりは、地方で気楽に生きることを選んだわたしだったが、ふと立ち寄った書店で目にした、オーストラリアの地図を見たときに、何か不思議な衝動がこみ上げてくるのを堪えることができなかった。その衝動の赴くまま、すでに決まっていた次の勤め先をキャンセルし、全財産を手にオーストラリア最北端の町、ダーウィンにやってきたわたし。思えばそれが、あの不条理な悪夢の始まりだったのだ………。

 「ビッグ・ピクチャー」、「仕事くれ。」のダグラス・ケネディのこれが実はデビュー作。ただしケネディという人は、作家としてデビューする前に、すでに旅行作家として成功を収めていた人だったんだそうで、本書でもオーストラリアを古びたワーゲンのワゴンで旅するニックの描写なんかはなかなかいい感じ。

 さてこのお話、「仕事くれ。」なんかでもおなじみの、優柔不断な男がそのせいでどんどんドツボにハマっていく、ってあたりの描写がおかしくもしみじみと痛いのだけれども、これ実は、デビュー当時からの彼の持ち味だったのだな。ただ、「仕事くれ。」は舞台が仮にも金が物を言うビジネスの世界だっただけに、確かに主人公のドツボぶりは身につまされる物はあったけれども、まだしも話せば判る世界であったことも確かだったのだけれど、このお話ではまず、話が通じないコミュニティに無理矢理引き込まれた男のドツボぶりが延々と続くわけで、これはなんというか、不条理な怖さを秘めたドツボ小説という感じだ。ちょうど前に読んだ、「偶然の音楽」と共通する怖さがある。

 一種のカルト団体に、無理矢理引き込まれた男が、どん底の生活の中で何とかそこからの脱出をもくろみ、その過程から結末に至る流れの中で、何かを失い、何かを得る、というような話なんだけど、どん底状態にあるニックの暮らしぶりが悲惨でありながら、同時に情けないものとしても描かれているあたりに、ケネディのシニカルな部分が反映されているのかもしれない。ラストもほろ苦く、そしてやっぱりシニカル。なかなかいいと思った。そのほろ苦いラストに至るまでの描写などのために、もう少し、できれば倍ぐらいの分量が欲しいとは思ったけどね。

 しかしなあ、文庫で300ページ程度の本がなんで1,200円もするんだ?JASRACに支払う分も含んでるのかね?なんだか釈然としないなあ。

01/12/24

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