「仕事くれ。」

表紙

ダグラス・ケネディ 著/中川聖 訳
カバー写真 David Buckland/amana images
新潮文庫
ISBN4-10-213812-9 \933(税別)

 スゴいタイトル(笑)。原題は"The Job"、「お仕事」なんですが、読み進むにつれてなかなかこのタイトル、いいとこ突いてると思わせてくれます。著者のケネディさんは前作、「ビッグ・ピクチャー」がなかなか読ませる出来(映画化の話もあるそうですね)で、ちょっと気になる作家の一人なわけですが、今回の作品も期待にたがわぬ面白さ。

 全米第三位のコンピュータ専門誌、"コンピュワールド"のアメリカ北東部地域担当のセールスマネージャー、ネッド。後発ながらみるみる発行部数を伸ばす"コンピュワールド"誌で、スポンサーからの広告掲載を取りつける業務で順調に業績を伸ばしていくネッドだったが、彼には一つの欠点があった。その生い立ちからくる必要以上な"大物ぶり"への固執。そのためネッドはそれなりのサラリーを得ていながらも常に多額の借金をかかえている身でもあったのだ。

 綱渡りのような生活を送るネッドだったが、彼には彼なりの成算もあった。順調な業績から期待できる多額のボーナスがあれば、たまった借金も返すことができる。クリスマス・シーズンまでがんばれば………。だが。

 ある日突然サラリーマンの上にふりかかる会社の合併、リストラの嵐、てえ図式、不景気な今の日本じゃあ多分に洒落にならん要素があったりするわけですが、ネッドの身の上にふりかかり、その後タイトル通り「仕事くれ」状態に追い込まれる原因も、そんな企業間の合併の話。普通でも大変な話なのに、普段から自分を"大物"に見せたがり、また、未来のお金を盲信して必要以上にお金を使って借金まみれになってしまっているネッドには超大変なピンチ。しかもネッドにふりかかるピンチはまだまだ始まったばかり………

 とにかくこれでもかとネッドにふりかかる災難の連続、そのいくぶんかは自業自得とはいえ、自分以上にスノッブな連中にいいように翻弄され、どんどん深みにはまりこんで行くネッドが哀れを誘いますねえ(^^;)。そんな彼が(お話ですから)いかに逆襲に転じるか、ってあたりが本書の最大の興味、って事になると思うんですが、奈落にどんどん落ち込んでいくネッドの描写の救いのない否応なさに比べ、ついに逆襲に転じるネッド(と彼の数少ない味方)の動きの描写に少々ご都合主義的匂いがしてしまうのがちょっと残念なところ。なんていうか、もう少し、ネッド君が自分を見つめ直し、自分のまわりを見つめ直し、そこから一発逆転の秘策を思いついて欲しかったなあ、て感じですか。

 でも、なかなか楽しく読めました。「ビッグ・ピクチャー」でこの人に注目したのは正解でしたね。

99/9/17

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