エンド・オブ・デイズ

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デニス・ダンヴァーズ 著/川副知子 訳
カバーイラスト 加藤直之
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011375-0 \740(税別)
ISBN4-15-011376-9 \740(税別)

 21世紀初頭、ニューマン・ロジャースが開発した画期的なヴァーチャル・リアリティシステム、"ビン"。そこには現実世界と寸分違わぬ世界が展開され、生身の人間たちはその人格をその世界にアップロードして、病気や貧困、もちろん寿命などとは無縁の生活を送ることができる。人格のデジタル化に反発する狂信的な宗教集団、クリスチャン・ソルジャーによる核攻撃によって破壊されたと思われた"ビン"だったが、ニューマンによって周到に用意されたバックアップによってその攻撃をかわし、その後100年にわたって平穏な日々を重ねていた。そして今、現実世界からのアップロードとは異なる、電脳世界で"生まれる"こととなった新たな世代が"ビン"に登場するようになった時代、ビンの内と外で、時代の大きなうねりが起ころうとしていた………。

 前作、「天界を翔ける夢」から70年後の物語。前作が電脳世界と現実世界を行き来する「ロミオとジュリエット」だったとすれば、今回はさしずめSF版「ベン・ハー」(ただし戦車競争以降)というか「クォ・ヴァディス」というか、うーんちょっと違うか、何に似てるって言えばいいのかな、こういうのは。

 前作のテーマは基本的にラヴ・ストーリィで、そこにSF的アイデアをまぶした作品だったとするならば、今回は前作で作ったSF的シチュエーションを利用しつつ、前作同様のラヴ・ストーリィをベースに、宗教的な価値観というか、死生観というか、そんなものへの考察を重ねた物語といえるか。前作でもラヴ・ストーリィ部分の作りはなかなか読ませてくれたダンヴァーズさん、今回は二組のカップルのラヴ・ストーリィと、電脳世界生まれの一人の男が自分のアイデンティティを見いだすまでのお話を同時進行させ、最後にその全部をちゃんと一カ所にまとめてエンディングへ持っていって見せるあたりのお話作りのうまさには感心させられる。

 ただ、そのエンディングからエピローグに連なる流れを含めて、神様ってものを全く信用してないオレとしてはこの話、つい「神様ってそんなにいいの?」って気分が先に立ってしまって、どうも最後の方でうまくお話に乗れないんだよなあ。

 無限の命を持つが故に、「死」の重要性に思いを巡らす"ビン"の人々、あまりにも命一個の値段が安いが故に、「生」に執着する現実世界の人々、とか、究極のユートピアといえる仮想現実空間を作ってしまったが故に、あまりに進歩したクローン技術を確立してしまったが故に悩む天才的技術者、とか、主要な登場人物の書き込みがどれもなかなか、魅力的なだけに、終盤のうってかわった聖書的なお話の展開に接すると、どうもオレは「うへ」って思ってしまうんだよな。何でもアメリカ人ってのは国民の75%が何らかの形で神の存在を信じているらしいけれど、そういう世界でないとこの本は完全には理解できないのかもしれない。オレとしては先ほどの、「神様ってそんなにいいもんなんですか?」って質問を誰にともなくつぶやいて本を閉じざるを得ないんだよな。

 どうも最近、不信心者には楽しめないSFが増えてきてないか?いいのかこれで?とか思ったりして。カバー裏の惹句には仮想現実をめぐる冒険SF、なんて書いてるけど、とりあえずそういう本ではないってことだけは確かですんでご注意。

 あ、最後になりましたが今回加藤直之さん、いい仕事してると思います。読み終わってからカバーイラストを見直すと、なかなかこの、いろいろと意味深なイラストに見えて参りますな。

01/11/13

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