天空の遺産

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ロイス・マクスター・ビジョルド 著/小木曽絢子 訳
カバーイラスト 浅田隆
カバーデザイン 矢島高光
創元SF文庫
ISBN4-488-69808-5 \900(税別)

 長く敵対関係にある超大国、セタガンダの皇太后逝去の報を受け、バラヤーからの特使として派遣されることになったマイルズ・ヴォルコシガンとイワン・ヴォルパトリルの二人のヴォル貴族。だが、天才的戦略家にして傭兵部隊、"デンダリィ傭兵艦隊"の指揮官、マイルズ・ネイスミスという裏の顔を持つ彼の行くところ、なぜか必ずトラブルがつきまとう。今回も到着早々、マイルズとイワンは謎の暴漢の襲撃を受けることに………。

 ビジョルドの人気スペース・オペラ、"ヴォルコシガン"シリーズの邦訳最新刊。ここしばらく、マイルズのおとっつあん、おっかさんが主役の話が続いたせいで、本来の主役であるマイルズにとっては久々の出番。ここまでしばしばマイルズや彼の母星バラヤーとの間で戦いを繰り広げたことのある最大の敵、セタガンダの主星を舞台に、セタガンダ人の中で進む権力闘争にマイルズが巻き込まれて、ってお話。

 通常「敵」って存在ってモノは、善玉側にとって、何が対立の理由になっているかとか、敵対してはいるけれども実は、みたいに、あくまで主人公側の都合で深く掘り下げられたり、適当な描写ですまされたりしているのが常なんだけど、この作品では、とりあえずマイルズたちバラヤー人達は、確かに事件に巻き込まれ、その苦境から脱出しようとしてはいるのだけれども、それ以上に敵国セタガンダの社会制度みたいなものをじっくりと説明していくってところに書き手の力点が置かれているようで、そこはなかなか興味深い。一種のエコロジーSFみたいな趣もある。

 セタガンダという星間国家は、文明的にはマイルズ達が属するバラヤーなどより遙かに洗練された国家で、その描写はたとえば"ファウンデーション"の首都惑星トランターを彷彿とさせるようなもので、逆に主人公達の暮らすバラヤーが、まだまだ宇宙の田舎でしかない、って描写や、その洗練されすぎた文化故、実はすでに文明としては停滞の時期に入っていて、そのことにセタガンダの人々はどういう手を打とうとしているのか、ってな描写がメインで、むしろ主人公、マイルズ達の活躍が結構控えめに感じられたりするのもおもしろい。たまにはこういうのもいい。原題はそのものズバリ、「セタガンダ」なんだけど、邦訳タイトルの「天空の遺産」ってのもなかなかうまいタイトルを付けたと思う。まあこの辺は読んでみてのお楽しみ。

 そのうえであえて文句言うなら、「ああ、女流作家のSFだなあ」とオジサンなんかは感じてしまうところが多々ある、ってあたりかなあ。もっと言うなら、少女マンガ風味がやはり少々濃いめであって、そこでちょっと引いてしまう部分があるんだな。

 ビジョルドはこの作品を書くに当たって、日本の平安朝の宮廷政治を参考にしたそうなんだけど、絢爛たる王朝絵巻、最高権力者であるミカドと、彼だけに責任を負うミカドを取り巻く絶世の美女達、なんて描写はもう、完全に少女マンガの世界なんだよね。そこに乗り込むマイルズも、やはりそれなりに少女マンガキャラ側にバイアスがかかっちゃうもので、こちらとしては少々「うへぇ」と思ってしまうこともなくはない。マキャフリィほど甘アマじゃない分、まだしもなんだけど。

01/11/05

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