タリバン

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田中宇 著
装幀 アラン・チャン
光文社新書
ISBN4-334-03103-X \680

 バーミヤン遺跡の破壊やWTCへのテロ攻撃などで一躍世界にその名を知られたイスラム教原理主義集団、タリバン。彼らはいかなる経緯で現代史に登場し、その目指す物は何なのか、アフガンに彼らが登場することになった歴史的な背景と、その現在がいかなる物なのかを、実際にアフガニスタンでの取材経験もあるジャーナリスト、田中宇氏が読み解く本。最近は新しい新書のシリーズが続々登場しているんだけれども、これまた新たにスタートした、光文社新書の第一回配本分の中の一冊。光文社といえばカッパ・ブックスを連想するけど、あれは、どちらかというと卑近な話題、センセーショナルな話題を少々扇情的かつわかりやすく紹介するタイプの本が多かったと思うのだけれど、こちらの新書シリーズも、その「取っつきやすさ」みたいな物は継承した上で、カッパ・ブックスブックスよりは少し「固い」物を紹介していこうというのが編集方針のように感じられる。非常に平易にまとめられた、タリバンの入門書として悪くない。

 タリバン、ていうのはアラビア語で「学生たち」という意味で、これはこのグループのもともとの母胎となった人々が、難民キャンプで育ち、イスラム神学校で教育を受けた学生と、その教師たちが主だったからなのだそうだ。彼らはもともと、パキスタンの肩入れなどもあって祖国の独立と安定よりも、派閥争いに明け暮れ、アフガニスタン国内を内戦状態においたままにしている既存のムジャヒディン勢力のありように純粋に怒り、国内の安定を目指して生まれた、一種の理想主義者たちの集団であり、実際その登場直後には、一般の民衆からもかなり大きな支持を得ることに成功していたらしい。

 ところが、若いうちから寮生活で、イスラムの聖職者たちである教師たちにイスラムの教えを純粋培養状態でたたき込まれてしまったが故に、タリバンの戦士たちはみな、よく言えば純粋、悪く言えば偏狭な物の見方しかできない人物となってしまったことが、現在に至る様々な悲劇や新たな争乱の元になってしまっている、というわけで、言ってみればタリバンの戦士たちというのは、ナロードニキ運動に身を捧げたロシアの学生たちと、根っこのところでかなり似た部分が多いのかもしれない。理想主義と原理原則でがちがちに武装した人間は、とてつもなく融通が利かなくなってしまう、ということなのだろうな。

 タリバンの登場とその勢力拡大の裏には、アフガニスタンをポイントにした中央アジアの利権を巡る米ソと、隣国であるパキスタンの思惑が複雑に絡み合っていて、元々はソ連の中央アジア、ひいてはアラビア海進出を阻止するという目的で、積極的に(ただし目立たぬようにパキスタンの陰に隠れて)タリバンに援助活動を行ったアメリカの存在があったのだが、それも湾岸戦争においてイスラム教国であるサウジの後ろ盾となり、同じイスラム教国であるイラクを攻め立てたことで、全部チャラになってしまった、ってあたりはなかなかに歴史の皮肉みたいな物を感じてしまう。結局アメリカは自分でまいた種を自分で刈り取らなくてはならない羽目に陥ってしまっているのだな。

 このあたりの、歴史的な経緯をふまえたタリバンの登場とその勢力拡大に関する記述は、確かにわかりやすく、興味深いのだけれどもこの本、全体としてはフォーカスが甘いというか、テーマへの切り込みがぶれるというか、そういう部分があってちょっと惜しい。最初にカッパ・ブックスの例を引いたのも、この本もまた、カッパ・ブックス的、日本人読者が興味を引きそうな話の持って行き方を結構踏襲しているように見えて、そこでちょっと、読んでる側としては焦点がぼかされている、と感じてしまうときが多々あるのだった。

 精強を持ってなるアフガン・ゲリラたちのその強さの秘密を、日本のサムライの生き様になぞらえてみたり(オレはそれは違うと思う)、このように負けた歴史を持っている民族は、歪んだキャラクターを持たざるを得ないのではないかなどという論調の陰に、日本人の大好きな、「日本人と○○人」の比較論みたいな、読者が興味を引きそうな話題を繰り出して、興味を引き留めようとする作意的な物をちょっと感じてしまう。ついでに言えば、本書に「タリバン」のタイトルはふさわしくない、とも思う。これは、(タリバンの存在も含めた)「アフガニスタン」の本だと思うのだが。

 いくつか、タリバンとアフガニスタンに関して、知らなかったことがわかったって点で、決して悪い本ではない。日本人にはなじみの薄いアフガニスタンという国が地政学的にどういう状況にある場所なのかを知る上で、いいとっかかりになる本だとも思う。んだけど同時にちょっと物足りなさも感じてしまった。

01/11/14

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