天界を翔ける夢

表紙

デニス・ダンヴァーズ 著/川副智子 訳
カバーイラスト 影山徹
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011335-1 \960(税別)

 21世紀、天才的な電子工学者ニューマン・ロジャースはほぼ独力で独創的な人工知能の開発に成功し、さらには生身の人格までもデジタル化し、そのデータをクローン培養された新たな肉体に転送することまでも可能にする。ニューマンの研究はさらに続き、ついには望む者はみな、生身の肉体を捨て、完璧に再現された仮想世界のなかで貧困も死もない電子的な楽園、"大(ビン)箱"での生活を行うことまでもが可能になった。ごくわずかの、生身の肉体を捨てることを拒否する人間たちを地上に残して。

 ほとんどの人間がその肉体を捨てデータの楽園に生きるようになったのとは対照的に、わずかに地上に残った人びとの間には徐々に暴力的なカルト教団の教えが蔓延していく。そんな時代、"ビン"で暮らす両親のもとを訪れた現実世界の青年ネモは、自分の誕生パーティで仮想世界の女性シンガー、ジャスティンと出会う。出会った瞬間、恋に落ちたネモとジャスティンだったが、二人の間には現実世界と仮想世界という超えられない世界の壁が立ちはだかる。しかも仮想世界に到着したてのジャスティンには、データコンバート直後のありがちな不調とは明らかに異なる記憶の錯綜があったのだ。この二人の出会いの裏にある秘密が徐々に明らかになるにつれ、二人の恋の行方も二転、三転して………

 SF版"ロミオとジュリエット"と言ってしまえばそれだけのもんなんですが、そこはそれ、太古からこの手のすれちがいラヴ・ストーリィってのはどうしようもなく読者の興味をそそるもんでありまして、本書もまたこの黄金パターンをしっかりと踏まえているだけに楽しめる。たまにゃあこういう大甘ラヴ・ストーリィも悪くない。ちょっと底割れしそうなミステリ仕立ては上手にこっちの思い込みを外してくれてるし、SF色もそんなに強くないけど、控えめにツボを押さえてていい感じ。

 "大甘"、と書きましたけどそこは男性作家。これをマキャフリィが書いてたら恐ろしいことになってただろうなぁ(^^;)などと思いつつ、適度に抑制の効いた甘さでよろしおした。続編もあるそうで、そっちも期待したいと思わせてくれる佳品。面白かったですよ。

00/12/7

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