スノウ・クラッシュ

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ニール・スティーヴンスン 著/日暮雅道 訳
カバーイラスト 弦巻和哉
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011351-3 \740(税別)
ISBN4-15-011352-1 \740(税別)

 輸出できるものが音楽と映画、コンピュータ・ソフトウェア、そしてマフィアが経営する宅配ピザだけになってしまったアメリカ。もはや合衆国の体裁もなく、多数の"フランチャイズ国家"によって分割されたアメリカを、走行するクルマに電磁式の銛を打ち込んで、コバンザメ状態になって疾走する特急便屋(クーリエ)の少女、Y.T。そして凄腕の一匹狼ハッカーにしてヴァーチャル・ワールド最強の剣士、今はピザの宅配人をしているヒロ・プロタゴニスト。二人が偶然であったとき、実世界と電脳世界にまたがって、謎のメタ・ウィルス、"スノウ・クラッシュ"にまつわる大事件が幕を開ける………

 1992年に刊行されるや、"ポスト・サイバーパンク"の代表作、などと騒がれた(らしい)、ニール・スティーブンスンの実質的なデビュー作。個人が勝手に国家をつくり、フランチャイズを増やして勢力を凌ぎ会うアメリカ、一般人でも手軽にジャックインできる、"メタヴァース"と呼ばれる仮想現実、強力なハッカーたちによって運営される、"メタヴァース"内の特別区域の現実感と非現実感。ピザの宅配で収益をあげるマフィアたちと、"マッドマックス"さながらの特殊車で、どこであろうと30分以内にピザを届けることに命をかける宅配人、謎のメタ・ウィルス、人類の進化にまつわる壮大な秘密………。まあこれでもかと繰り出されるSF的なアイデア、ブッ飛んだ世界観、そして限りない悪趣味と疾走感。わたしゃ"ポスト・サイバーパンク"と言うよりは、むしろ、'90年型サイバーパンクって感じがするなあ。

 その疾走感ゆえなのか、しばしばお話の流れを見失いがちになるんですが、アイデアてんこ盛りのごった煮SFのおもちゃ箱的感覚のおもしろさはなかなかのもの。基本的にスラプスティクが持ち味なんだけど、"スノウ・クラッシュ"とそれにからめて語られる、人類の進化の秘密に切り込んでくる大胆な仮説なんか、案外本格的にSFしてるあたりもうれしいやね。たいへん楽しめる一作でございます。

01/5/10

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