天才伝説 横山やすし

小林信彦 著
カバー 峰岸 達
文春文庫
ISBN4-16-725610-X \476(税別)

 えー、わたしゃ関西で暮らしておりますが、生粋の神戸ッ子のカミさんに言わせると、絶対に関西人じゃないんだそうです。いろんな理由の一つに吉本新喜劇に全く興味を示さない事があるんだとか。ううむ、確かにわしゃあれが面白いとは思えんのだよな。このあたり、関西人特有のDNAみたいな物は確実に存在しているような気がするぞ、その証拠に息子はあれをおもしろがって見てるもんなぁ(^^;)。

 そんな関西人の多くが愛し、しばしば"天才"などと形容される、"やすし・きよし"の横山やすしという芸人の一生を、自らが原作者でもあった映画、「唐獅子株式会社」との関わりも織り込んで、エンタティンメントに造詣の深い小林信彦さんが描いた一冊。たとえば村松友視さんの「トニー谷、ざんす」や、唐沢俊一さんによる潮健児さんの一代記なんてのもがありますが、それらの本と比べると本書では、著者である小林さんが、対象である横山やすしという生き方のなかで一瞬かなり重要な役割をもって登場していると言う事になりますか。この結果、他の一代記に比べて、より積極的に、対象に対しての感情が表れてきていると思えます。この辺が面白い。

 基本的に東京系の、スマートな笑いを好む小林さんなので、随所でハリウッドのコメディ、また、ビートたけし(やっさんとはわずか三つしか、歳違わなかったんですな)などとの対比を交えながらやすしの芸の特質を分析し、その上で、天才的ではありながらも漫才というジャンルでの天才であるがゆえに、相方なしには光ることができなかったやすしのジレンマにも切り込んだ好著。切れ味が鋭すぎるがゆえに"自滅型"の人生を歩まざるを得なかった横山やすしという人の生き方、いろいろと考えさせられる事が多いですな。亡くなった人には悪いけど、オレが好きになれない生き様だけどね。

 お話の本筋とは関係ないのですが、映画作りに関して、自らもいろんな形で関わってこられた小林さんのこんな分析はなかなか、示唆に富む物があるのではないかな。

 落日を過ぎた日本の映画界はちがう。会議を重ねた挙句、マイナスの方向に結論が出る。外から見ていても、失敗する方向に物事が決まってゆく。一九六〇年代から、すでにそうであったが、映画が失敗すると、スターの責任になり、プロデューサーを含めて社員は誰ひとり責任をとらない。

 うーむ、"スター"って部分を"怪獣"に置き換えると、ほら(^^;)………。

01/3/13

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)