永遠(とわ)に去りぬ

ロバート・ゴダード 著/伏見威蕃 訳
カバーデザイン 中島かほる
PHOTO BY ONE STEP
創元推理文庫
ISBN4-488-29806-0 \1120(税別)

 欧州共同体の官僚として、悠々自適の生活を送りつつ、何か満たされない物も感じていたわたし、ロビン。そんな私の生活を一変させる出来事が起きたのは、3年前、夏のさかりの黄金(きん)色の日暮れだった。兄の急死により、体制建て直しが急務となった私の親族たちの同族会社に、経営陣として参加すべく故郷にむかう私は、その道すがら、ふとした気まぐれの山歩きの途中、不思議と忘れられない印象を持つ女性と知り合う。ほんの二言三言、言葉を交わして別れた彼女だったが、その存在はやがてふたたび私の前に大きな影を落とすことになる………

 毎回濃厚な読み応えで本読みの楽しみを満喫させてくれるゴダードの邦訳新作。閉じられた環以来なんだな。結構間があいてしまった。さて件の前作、そのまた前の「鉄の絆」が少々なんかなあ、てとこもあっただけに、今回はどないなもんかいなと言う感じで。とりあえず分厚い一冊モノって時点で期待してしまいましたわ。最近、必要もないのに二分冊にする本が多くて、しかもその類って往々にしてつまらないんで、こういう、どかん、とした本を見るとそれだけでうれしくなっちゃうんだな。

 閑話休題(それはさておき)本の話。結論から言って、「いつものゴダードが帰ってきたなあ」って感じでしょうか。ゆっくりと濃厚なストーリー展開、読者の予想を次々と裏切る筋立てのおもしろさ、傑作、「千尋の闇」や「蒼穹のかなたへ」に通じる、一見ダメ中年が自らに残った誇りだけは失わなず、困難な状況に立ち向かう、ってパターンもうれしい。「ゴダードだからな」などとこちらも充分警戒しているつもりなんだけど、その警戒網を易々とくぐり抜けて「えっ」っと思わせてくれるあたりのお手並みはさすがの一言。

 このラストでいいのか?という疑問もなしとしませんが、じっくり本を読む楽しみを満喫させてくれるとてもいい本。いつもはハイテク軍事サスペンスなどでスピーディーな訳をしてくれる伏見さんが、ここでは一転、重厚な訳を見せてくれてこれも見物(読み物か)ですよ。

01/3/3

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