梶原一騎伝

斉藤貴男 著
カバー装画 ©梶原一騎・川崎のぼる、高森朝雄・ちばてつや/講談社
カバー印刷 鏡明印刷
デザイン 新潮社装幀室
新潮文庫
ISBN4-10-148731-6 \743(税別)

 第二次世界大戦のアメリカの英雄、パットン将軍の伝記の惹句に、「この本を読めば、あなたは3度彼を憎み、4度彼を愛するだろう」なんてのがあったのを思い出しました。僕ならおそらく「4度彼を憎み、3度彼を愛する」かなあ。現代マンガの中にあって、事の善悪はともかくとして、消し得ない光芒を放って消えたマンガ原作者、梶原一騎の生涯を丹念に解き明かす労作。

 著者の斉藤氏は1958年生まれ。僕は1959年生まれ。一つ違いなんですが僕はついぞ梶原一騎の作品に惚れ込むことができませんでした。斉藤さんは少年時代の一時期、梶原作品に感化され、野球をやり、極真空手に入門して、というような経験があるようですが、僕にはそんな経験はないです。むしろ僕はかなり早い時期から梶原一騎的物語世界には、明確に拒否反応を持ちました。もしかしたら(モノにはなりませんでしたが)僕が絵を描いていたせいで、梶原作品と1セットになったくどく、あか抜けない画風に拒否反応を持ったのかも知れない(ちなみにわたしゃ、いまでもこの感覚を『マガジン』に対して抱いています)。

 それでもなお、本書で語られる梶原一騎像というのは、愛憎半ばしつつもなお魅力的であると言わざるを得ない。平成の御代では期待できない、アツく、何かに憑かれたような、なにかこう熱病にうかされたかのように一瞬を駆け抜けた人間の姿があって、そこには愛おしく、また同時に理解はしつつ納得はできない一人の人間の生き様がある。これはちょっと得難い読後感。

 僕にはこの生き方は納得も支持もできませんが、それでもこういう生き方しかできず、それを完遂するしか自分の存在価値を誇示できなかった人間がいたということ、そしてその生き様が時代のニーズに一瞬、ハマりすぎるぐらいハマってしまった事が生む悲劇があった、ってあたり、人間の一生ってのは案外当事者にはコントロールできないものだなあ、などと感じてしまいますね。

 改めていいますけど、本書を読んでも僕は梶原一騎を好きだとは言えないです。でも、梶原一騎がいた時代を、否定することはできないなあ、などと感じてしまったことでした。読み応え、ありです。

01/3/5

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