タクラマカン

表紙

ブルース・スターリング 著/小川隆・大森望 訳
カバー 田中光
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011341-6 \800(税別)

 サイバーパンクの提唱者の一人であり、いまやアメリカを代表するSF作家の一人でもあるスターリングの短編集。サイバーパンク、なんて言葉ももはや死語になろうとしておる昨今ではありますが、スターリングやギブスン、ベアといった、このムーヴメントの中心的人物であった作家たちは、ハッタリの効いたキャッチフレーズなんかなくたって、充分やっていける実力があることを示していてうれしい限りなんでありますが、この短編集もそんな、パンクなイメージを漂わせつつも円熟味も感じられる好短編が収められております。

 スターリングはインドなど、いくつかの外国で育った後にアメリカに戻ってきたそうですが、この生い立ちが、彼の作品中に漂うアナーキーな雰囲気とか、アジアの国々を重く見るスタイルに反映されているのかも知れませぬ。ネットワーク社会が発達し、"シェアする"発想が浸透し(すぎ)た日本を舞台におこる悲喜劇、「招き猫」をはじめ、北米、EC、東アジアの三大経済圏が覇権を競う地球を舞台に、アメリカ、チャタヌーガ生まれのエディとその友人たちがリレー風に主役を務める三部作など、どれもほどよくとんがって楽しかった。

 なんでもそうなんだけど、とんがったモノはそのとんがりが鋭ければ鋭いほど刺激は強力だけれども、その鋭さゆえに細く、脆いって側面もあるワケで、かつてのサイバーパンク・ムーブメントの発生から沈静化に至る流れというのは、つまるところとんがりすぎた針をあちこちつつきすぎてあっさりその針先を折ってしまった、ってなことなのかもしれない。とんがりと耐久性をほどよいバランスで維持した針をもっていた人たちだけが、その後も活躍できた、って感じかな。

 一見ナマクラに見えて、その実充分なとんがりを維持したスターリングの針にぷちぷちと刺される快感を堪能できますですよ。

01/1/24

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